「こねこばくはつ」

「こねこばくはつ」© 2023 Netflix, Inc.

2024.7.29

ドはまり「こねこばくはつ」瞳うるうる中身はおっさん〝神ネコ〟 ぶっ飛び展開と抜群共感度

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きどみ

きどみ

この夏、NETFLIXで新たな〝ネコアニメ〟が配信開始となった。その名も「こねこばくはつ(原題:EXPLODING KITTENS)」。大人気カードゲームが基となった本作は、「全知全能の神がネコになり、地上でネコの姿をした悪魔と戦う」というとんでもない展開なのだが、見れば見るほどこの独特な世界にひきつけられる。


天国から追放された神が白ネコの姿に

ある日、天国の神が怠惰を理由に部下たちから〝クビ〟を宣告され、地上に降りて人間の祈りに応えるよう求められる。地上に飛ばされた神はネコの姿に変えられて、「家族を救ってもらいたい」と祈ったヒギンズ家の一員として潜り込み、問題解決に奔走していく。

まず見どころは、個性豊かなキャラクターたちである。天国の神は白髪白ヒゲ、〝神ボディー(自称)〟を誇り、全能だが尊大で下品、やりたい放題。天界をめちゃくちゃにして悪びれず、ついに部下たちに追放される。ネコになった神、通称「神ネコ」はうるうるした目を持つ可愛らしい真っ白な姿だが、中身は神の時と変わらず〝おっさん〟そのもの。可愛い見た目から暴言、下ネタを次々と吐き出すのである。


くせ者ぞろいのヒギンズ家

そんな神ネコが潜入したヒギンズ家も、くせ者ぞろいである。母・アビーは動物管理局員だが元海軍特殊部隊。好戦的で動物や人間を〝狩る〟のが大好き。激しい気性の持ち主である一方で、「家族を救ってもらいたい」と神に祈るほど、思い通りにならない家族関係に悩む繊細さも併せ持つ。スーパーに勤務している父・マーブは、ボードゲームが趣味。昇進のため、ボスの無理難題に応えようと奮闘中だ。息子・トラビスは幼い頃にバズってしまったトラウマ動画のせいで友人たちからバカにされ、別の何かで有名になろうともがいている。娘・グレタは常に人体や生物の研究で忙しい。好奇心が高じて、トラビスの体でひそかに実験を行うこともある。

天国から来た神ネコに敵対する形で地獄からやってくるのが、地獄のCEO〝悪魔ネコ〟である。悪魔だけに、真っ黒でツノとしっぽを持つのが特徴。神ネコに〝地獄〟を味わわせるために、神ネコお気に入りのクマのぬいぐるみをズタズタに解体するなど嫌がらせを試みている。

一癖も二癖もあるキャラクターたちは、皆自分の欲望に正直に、好き勝手に行動している。見ていてすがすがしくなるほどの自由奔放で、次は何をやらかすのか目が離せなくなるのだ。


切実で普遍的な人間の悩み

ヒギンズ家の面々は言動こそ極端だが、抱える悩みはどれも普遍的である。アビーは思春期の息子と娘の距離感に悩み、マーブは雇用主との関係や職場の待遇で悩み、トラビスは友達や世間からどう思われているのかで悩んでいる。

一番印象に残っているのが、グレタがアビーに「子どもを産むために海軍を辞めたことを後悔しているのではないか」と詰め寄る場面である。キャリアもプライベートも、どちらも自分の希望通りに手に入れるのがまだまだ難しい女性の現実をど直球でぶつけていた。グレタは、自分たちの存在によって母がキャリアを諦めなければならなかったことに多少なりとも罪悪感を抱いているのかもしれない。攻撃的な言葉の裏に寂しさも垣間見え、切ない気持ちになった。日ごろしょうもない会話をしているからこそ、グレタの真に迫った言葉が突き刺さる。


対ゾンビ リアルボードゲーム

神ネコは神のみぞ知るやり方で、ヒギンズ家の悩みを解決に導いていく。家族の仲を深めるため、家族をボードゲームの駒サイズに縮小してゾンビたちと戦わせたり、「人間の感情を消してほしい」とグレタに頼まれると、インターネットで簡単にバージョンアップしようとしたり。神の力の無駄遣いなのでは⁉とツッコみたくなる。

敵対する悪魔ネコとの戦いもなかなかに破天荒だ。スーパーの商品である肉やトイレットペーパーを体のパーツにして格闘したり、体をAIRPODSサイズに縮めそれぞれがマーブの片耳に入り、マーブを洗脳しようとしたり。巻き込まれている人間は気の毒だが、いつの間にか人間もその状況を受け入れてしまっている様子がシュールだ。

ヒギンズ家の庭ではじまった神ネコと悪魔ネコの抗争は、最初は善対悪の戦いだったが、やがて天国と地獄の支配者を決める大規模な戦いへと発展する。そして最終的には、地球滅亡の危機が訪れてしまう。神ネコは、神の力で地球を救おうとするのではなく、〝みんなで協力して〟地球のために奮闘する。そもそも人間たちと過ごさなかったら彼女らを救おうとすら思わなかっただろう。意外にもジーンとくる結末であった。

完璧でない人間たちがいとおしく

キャラクターといいストーリーといい奇想天外でぶっ飛んでいながら、底に流れるテーマは普遍的で共感度抜群。この案配がちょうどいいのだ。「こねこばくはつ」に登場するキャラクターたちは、みんな完璧ではない。トラビスやグレタは自己中心的だし、親であるアビーもマーブも、〝手本となる存在〟とは言い難い。だが「それが人間なのだ」と思わせてくれる。完璧でないからこそ、人は協力して困難に立ち向かおうとする。最初は人間を見下していた神ネコだが、ヒギンズ家と暮らしていくうちに徐々に人間を好きになっていく。

自分勝手だがどこか共感する部分があって、憎めないキャラクターたちひとりひとりに共感したりしなかったりして、完璧でない人間のことをよりいとおしく感じるはずだ。

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ライター
きどみ

きどみ

きどみ 1998年、横浜生まれ。文学部英文学科を卒業後、アニメーション制作会社で制作進行職として働く。現在は女性向けのライフスタイル系Webメディアで編集者として働きつつ、個人でライターとしても活動。映画やアニメのコラムを中心に執筆している。「わくわくする」文章を目指し、日々奮闘中。好きな映画作品は「ニュー・シネマ・パラダイス」。
 

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