「アメリ デジタルリマスター版」© 2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves

「アメリ デジタルリマスター版」© 2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves

2023.12.16

「人間には人生に失敗する権利がある」Z世代が見た「アメリ」

Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。

堀陽菜

堀陽菜

私の名前は堀陽菜。
好きなもの、時間より早く終わる授業。
嫌いなもの、冷めてしまったコーヒー。
Z世代と言われる学生ライターの私が最も気になっていた映画「アメリ」は、他者との調和性に欠けた不器用な主人公アメリが織りなす〝幸せになれる〟物語である。
 

幸せなおせっかい人生

幼い頃、医者である父に心臓病だと誤診されたアメリは学校にも行けず、一人で過ごす幼少期だった。そんな彼女の居場所は空想の世界のみ。彼女が想像した世界はどれもこれもユニークでクスッと笑ってしまう。しかし、アメリの空想癖は〝不思議ちゃん〟という範疇(はんちゅう)に入るような気もした。人と関わることに不器用で、ただひたすらに孤立感を助長してしまっている空想の生活は、大人になっても変わることがなかった。そんな時、自分の部屋に隠されていた宝箱を見つける。おそらくアメリがこの部屋に越してくる前の住人の物らしき宝箱だ。それを持ち主に返そうと試みたアメリは、初めて人を幸せにすることに喜びを感じる。ここからアメリの〝幸せなおせっかい人生〟がスタートする。

 

この孤独はたぶん悲観的な類いじゃない

アメリは小さい頃から友達もできず、家族以外とはあまり関わらなかった。大人になってもカフェで働く以外は自分の生活レールから外れることなく淡々と自分ペースで生きている。そんな彼女が感じていたのは孤独感だと私は思う。でも、この孤独はたぶん「悲しい」とか「寂しい」とか悲観的な類いじゃないと思う。単に「孤独」「孤立」と言うと、仲間外れだとか、社会的交流が全くない生活を思い浮かべるが、アメリには仕事もあり仕事仲間でアメリのことを悪く思う人は一人もいない。はたから見れば、アメリは完全に社会に溶け込めているのだ。
 

世界と調和がとれた気がした

そんなアメリをなぜ私は孤独な子だと感じたのか。答えはあるシーンでピンときた。それはアメリの初めてのおせっかいが実り、宝箱を持ち主に返すことができたあのシーンだった。宝箱が手元に帰ってきた高揚を抑えきれない持ち主を見たアメリは、人が喜ぶことで自分の心までもが豊かになることを知ったのだ。そして彼女が感じたことは「世界と調和がとれた気がした」と表現されていた。まるで片思いしていた相手が初めて自分を見てくれたような、そんな表現の仕方だ。よっぽど今まで世界と自分自身がどこかズレていると感じていたんだなあと、心から同情してしまった。それと同時に、アメリの孤独世界に興味が湧いた。アメリの孤独が「悲しみ」というふうには描かれないのはなぜなのか。

心落ち着ける〝ある場所〟

それはアメリ自身が「自分」を持っている強い女の子だからだと私は思う。誰とも比較せず、ただただ自分の空想の世界に浸ることで心の居場所を作っている。アメリは生き抜くのが上手だなと私は思った。私はすぐ人と自分を比較して悲観的になってしまう。生きているだけで全神経をフル回転しているような気分だ。アメリと違って私の孤独は悲観的。だから彼女が羨ましく見えた。この作品のどのレビュー記事を見ても彼女は「不器用な女の子」と言われているが、私にとっては十分かっこいい。誰にとっても、生きている中でつらいこととか苦しいことは必ずあるが、もう無理!ってなった時に、自分で逃げ道を見つけられる人は少ない。アメリの空想の世界のように、私にも心落ち着ける〝ある場所〟があればいいのにとこの作品を見て思った。

 

人生に失敗する権利

空想の世界を居場所にするアメリが恋をしたのは、アメリと社会が交わっていくきっかけになっただろう。アメリは空想の世界だけではなく、確実に社会の一部として存在しようと葛藤していた。好きな人と直接話すことができず、常にガラス一枚を挟んででしか関わることができない彼女が自分の殻を抜け出そうと必死になっている姿が印象的だった。そんな葛藤するアメリに投げかけられた言葉は「アメリの自由だ。夢の世界に閉じこもり、内気なまま暮らすのも彼女の権利だ」。さらには「人間には人生に失敗する権利がある」とも言われていた。このアメリへの言葉は、アメリを混乱させるとともに自分の殻を破るための応援にもなっただろう。今のままでも十分良いし、今までと違う選択をしてみても良いというふうに。なんて温かい作品なのだと思った。
 

ぜひ一緒に語りたい

実は私はフランス映画に少しの苦手意識を持っていた。ハリウッド映画や邦画に慣れてしまった私にとってフランス映画の独特なテンポ感は少し受け入れがたい。しかし「アメリ」は不思議にも受け入れやすいサラサラとしたテンポ感で、とても見ていて心地が良い。色彩や衣装として使われている洋服もおしゃれで、今の若者にウケると思う。いろんな要素を踏まえて、同世代の人々に今最もおすすめしたい作品だ。そしてぜひ一緒に語りたいものだ。

「アメリ デジタルリマスター版」は全国公開中。

ライター
堀陽菜

堀陽菜

2003年3月5日、兵庫県生まれ。桜美林大学グローバルコミュミュニケーション学群中国語特別専修年。高校卒業までを関西で過ごし、大学入学と共に上京。22年3月よりガールズユニット「MerciMerci 」2期生として活動開始。
好きな映画は「すばらしき世界」「スピードレーサー」「ひとよ」。幼少期から兄の影響で色々な映画と出会い、映画鑑賞が趣味となる。特技は14年間続けた空手。