国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。
2024.9.13
大ヒット公開中「インサイドㆍヘッド2」スタッフが日本人とのコラボレーション短編映画で快挙!
東京の花見には特別なコースが必要
「見に来てくれたんだ。 町の人としてありがたいね」。我々がなぜあの古いアパートの近くをうろついているのか、わざわざ説明しなくても近所のおばさんはもう知っていた。それはそうだろう。天祖神社(江東区)の隣。そう、「PERFECT DAYS」のロケ地にやってきたのだ。しかも太平洋を渡ってきたグリーンアイの女性と一緒だったためなおさらだったはず。
プチョン国際アニメーションフェスティバル(以下「BIAF」)以来5カ月ぶりの再会ということもあり、なかなかタイミングを合わせにくい我々の東京の花見には、特別なコースが必要だった。せっかくなら映画人同士という特性に合わせたいとも思っていたので、江東区と台東区付近に集まっているユニークな風景は、文字通り「完璧な一日」を提供してくれた。ピクサーㆍアニメーション・スタジオ(以下「ピクサー」)のテクニカルディレクターでありアニメーション監督、そして驚くべき才能と同じくらい謙虚な人格で、毎瞬間筆者を感動させる大事な心友マーシャ・エルスワースとの楽しかった春日。
美学的経験が思い出の一片で終わらなかった
筆者としても喜んでその日のイベントを企画できたのは、日本文化に対する彼女のあふれる愛情のおかげだった。ウクライナの大工場のCTO(最高技術責任者)だった祖父の代からの縁で、芸術を愛する少女は、日本人形や着物の写真、箸から感じられる独特のスタイルとデザイン文化に魅了され、大学生になるやいなやわくわくする気持ちで来日した。この話がより感動的なのは、このような美学的経験がただ思い出の一片で終わらなかったからだ。
ピクサーで自分のキャリアを始める
ブリガムヤング大学でコンピューターサイエンスとビジュアルアートを専攻した彼女は、世界アニメーションの流れをリードするメジャースタジオのピクサーで、自分のキャリアを始めることになる。インターン時代に「レミーのおいしいレストラン」の製作に参加した後、「カールじいさんの空飛ぶ家」のキャラクター作業、そしていよいよ世界人を感動させる傑作「インサイド・ヘッド」の製作ではシーケンスの陰影処理をする方法を考案し、同僚の敬意を得た。「ファインディング・ドリー」、「私ときどきレッサーパンダ」、「インサイド・ヘッド2」では、キャラクター・シェーディング作業をリードするディレクターの役割を引き受けることになる。
真の自分の姿を肯定する内面の旅
このような彼女のキャリアと幼年の経験が彼女の独自の作家性と調和しながらシナジー効果を発揮した結果が、先のBIAFに出品され絶賛された短編アニメーションの「リトルT」である。夢に描いた職場の面接が予定されている「運命の日」、これまでの人生を振り返り、想念が交差する過程で幼い頃の自分に出会い、最終的に「内面の批判者」という形で自分を支配していた強迫観念を飛び越え、真の自分の姿を肯定する内面の旅を代案的なストーリーテリングと驚くべきキャラクター表現で描き出した驚異的な作品である。彼女は同作を通じて、日常的なトラウマがしばしば見過ごされる影響を探求したかったという。我々は普通、トラウマを事故や暴力犯罪のような主要事件と関連付けるが、多くの人々は日常生活で持続的なストレス、精神的虐待または放任を経験し、これは長く持続する影響を及ぼす恐れがあるためだ。
日本人イラストレーターの中原亜梨沙
特にこの作品で注目すべき点は、作家のマーシャのようにグリーンアイを持っているが、黒髪で表現されている主人公の姿である。これはブロックバスターを連想させる最高の経歴を持つ作品のスタッフ陣に、日本人がプロダクションデザイナーとして参加していることと関係しているが、そのビハインドストーリーがあまりにも印象的だ。作品を構想していた当時、マーシャは作品のスタイルがピクサーとは違うことを望み、インスピレーションのためにサンフランシスコジャパンタウンの書店を訪れた。そして、その書店である若い女性イラストレーターのスタイルに魅了され、日本語の画集を購入し、日本語の読める友人に作家の名前を探してほしいと頼んだ。それが日本人イラストレーターの中原亜梨沙氏。そして、翻訳ソフトで日本語の文章を書き、インスタで見つけた彼女に連絡をする。
10以上の国際映画祭に招待
二人のコミュニケーションには翻訳ソフトが使われたが、そもそもそれは重要ではなかった。二人の間には芸術という共通の要素があったからだ。マーシャは現実世界の要素を結合しながらも、その個性をスタイリッシュで優雅に維持し、視覚的趣向に共感を呼び起こす彼女の色、パターン、単純な線を使う方式に魅了される。被写体の顔は映画製作とアニメーションで非常に重要であり、グスタフ・クリムトのように被写体を取り囲む背景に象徴性を多く使うが、これは「リトルT」のストーリーテリング技法ともつながる。意味をレイヤー化し、追加的な脈絡を提供する最上の方法。結局、BIAF以外にも北米地域を代表する10以上の国際映画祭に招待され、Canada Shorts最優秀賞、Portland Festival of Cinema, Animation & Technology銀賞などの輝かしい受賞実績を上げた。この1年間、ほぼ毎月国際映画祭に招待される驚くべきスケジュール。
ウクライナの伝統文化をアニメーションと融合
「上映時間6分の小さな映画の巨大な奇跡」。しかも、先日製作が完了した次期作で、彼女の出身地であるウクライナの伝統文化をアニメーションと融合させた「Bound」は、再びBIAFに出品される快挙を成し遂げる。
今回もまたどれほど多くの人々を驚かせるだろうか。制作上の日程とさまざまな状況で日本の映画祭に作品を送ったことはないが、彼女の夢は日本のアーティスト、フィルムメーカーとのコラボレーションである。「彼らの才能、独創性、技術への献身が、いつもたくさんのインスピレーションを与えている」という。心友にこれからも数多くのときめきの瞬間が待っていると確信する。