「キングダム 大将軍の帰還」

「キングダム 大将軍の帰還」©原泰久/集英社 ©2024映画「キングダム」製作委員会

2024.7.25

観客を興奮させ続ける驚異的シリーズ! 最新作「キングダム 大将軍の帰還」にもやっぱり引かれてしまうワケ

国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。

洪相鉉

洪相鉉

筆者が日本映画史に「スター・ウォーズ」のようなブロックバスターシリーズとして一線を画す「キングダム」に熱狂する理由は、ただ親友の佐藤信介が共同脚本家と監督を務めているからだけではない。
 


映画「キングダム」シリーズに、吉川英治「三国志」の影を見る筆者

簡単に言えば古代中国の春秋戦国時代末期における戦国七雄の争乱を背景にしているこの作品に生まれて初めて読んだ大河小説「三国志」の作家、吉川英治の足跡を見るからだ。中国明代の羅貫中(らㆍかんちゅう)ではなく、神奈川県出身で後に文化功労者、文化勲章受章者となったあの吉川英治氏である。筆者の父親の本棚に差し込まれていた全8冊のこの小説は、中国後漢末から三国時代の歴史物語を歴史書ではないジャンル上小説の「三国志演義」に基づいて書かれた全く新しい作品といえる。特に注目すべきところは、普段「奸臣(かんしん)の典型」として攻撃される曹操を非常に魅力的な人物として描写する新しい観点の解釈と、他にも冗長な戦闘の描写を果敢に省略する決断力も光る。

そして、「蜀漢正統論」のドグマを破った吉川氏の同作は、「大義」や「名分」を説くことにフォーカスを合わせる説教風の古典を超え、文学作品としての価値まで兼ね備えたエンターテインメントに生まれ変わった。少なくとも筆者から十数世紀の文豪の名を忘れさせ、吉川氏への感謝の気持ちもいっぱいだ。もし彼がいなかったら、読み終えるのに決心が必要なこの世界の名作に触れる機会があっただろうか。さすが明治時代に導入されたポークカツレツを飛び越え、とんかつという全く新しい料理の歴史を書き出した文化力。
 

観客はひたすら「キングダム 大将軍の帰還」の世界に没入し、楽しめばいい

「キングダム」という、すでにパート4の「キングダム 大将軍の帰還」が公開されたこのアジア映画の金字塔が、筆者にとってかけがえのない大切な作品である理由も、上述した話と同じ脈絡にある。日本の監督が日本の原作を日本のキャスト、スタッフを主軸に(中国現地の製作陣もいたという点では国際共同製作とも言えるが)実写化したが、「日本映画の金字塔」と話すにはその幅はあまりにも広く、包括する価値もあまりに多い。作品の大筋は戦災孤児で奴隷出身の「信」が天下統一を目指す若い君主「嬴政」と交感し、天下統一を目指すものだが、観客は複雑な中国古代史や覚えにくい中国風の名前の登場人物を覚える必要はない。ただ、古代の大陸で繰り広げられる驚天動地(きょうてんどうち)の活劇を楽しめばいいのだ。甚だしくはシリーズの4本目とはいえ、宿題のように前の3本を必ず予習する必要もない。とりあえず映画館で楽しみ、気が向いたら復習しても構わない。
 
客席に座って上映館の照明が消えると、我々はまるで遊園地のアトラクションに乗るように紀元前3世紀の世界への冒険を始める。パート3の「キングダム 運命の炎」と「キングダム 大将軍の帰還」が差別化される点を言うと、前者は追撃戦の緊張感と胸を打つ感動に注目していた半面、後者の場合もやはり何度も目頭が熱くなる感動はそのままだが、迫力と臨場感あふれる決闘場面が何度も登場し、一寸も退くことができない秦軍と趙軍の対決をただ劇場で味わうしかないスペクタクルが光るということだ(告白すると筆者は映画評論家として要請する場合、映画館に行かなくてもオンライン試写用のスクリーナーで本編を見る機会を提供してもらえるが、前の3本と同じくプチョン国際ファンタスティック映画祭の日程を終えて帰国するやいなや映画館に駆けつけた)。
 

ファンならずとも必見! 今夏、本作が日本映画の底力を見せてくれる

日本映画を愛する観客ならば、同作により魅力を感じる理由はまだある。作品が大団円に向かって疾走しているだけに、ほとんどの登場人物が自分の独特なキャラクターを発揮し、それが監督特有の堅固な演出力で調和され、究極の楽しさを与えてくれるのだ。 例えば、今まで知らなかったエピソードを通じてある人物により愛情を感じ、まるでRPGのプレーヤーのようにだんだんと成長していく「信」に感情移入しながらカタルシスを満喫するのは、先の「スター・ウォーズ」以外にも「ロードㆍオブㆍザㆍリング」、「ハリーㆍポッター」など、いくつかのシリーズが公開され、いずれも興行的に成功した大作で共通して見られる特徴であろう。さらに基本の2D観覧以外にもMX4D、ScreenX、4DX、ULTRA 4DX、Dolby Cinema、IMAXなど、楽しめるさまざまなオプションが備わっているのも魅力と言える。
 
国際映画祭に参加する度に「映画産業の危機」あるいは「映画館の危機」等を憂慮する世界各国の声を聞きながら悩みに陥り、いつものように憂鬱になった気分がこの一本の映画で急反転したことに改めて感謝する。いつの間にか2024年の夏真っただ中、ちょうど夏休みシーズンに「キングダム 大将軍の帰還」とともに広大な冒険の大地へのシネマバカンスに出かけてみてはどうだろうか。

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ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。

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