誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2024.7.04
今思い返してさらに胸を熱く焦がしている「言えない秘密」一音も聴き逃したくないと思うほど夢中
一瞬でこの作品に引き込まれてしまった
映画館に行って映画を見ていると誰もが大きなスクリーンに注目する。それは当然のことなのだが、そのスクリーンに私たちを引き込んでくれる大切な要素、それは音だ。映画にとって音は命であり、何気ない足音や会話、挿入歌や主題歌までが観客にとっていかに自然に受け入れられる音であるかは、作品への没入感を大きく左右すると思う。その観点から「言えない秘密」について語るのであれば、私は一瞬でこの作品に引き込まれてしまった。ピアノの楽譜を手に取る時の音など、普段は特に集中して聞いてはいないささいな音がどうにも心地よく、映画の始まりからエンドロールの余韻まで一音も聴き逃したくないと思うほど夢中になった。
また会いたいという雪乃自身の強い気持ち
運命的な出会いを果たした湊人と雪乃には音楽、さらに言えばピアノという共通項がある。2人はお互いの孤独や葛藤に寄り添おうとするからこそ、特別な関係としてひかれ合うようになる。
授業中に目が合ったり授業をサボったりする2人の姿は、まるで青春そのものであるかのように輝いて見えた。しかし、雪乃の言えない秘密を知ってしまった時、2人の幸せだった時間全てが衝撃のラストへとつながっていく。雪乃が「運命ならきっとまた会える」と湊人に伝えていたのは雪乃の本心でもあり、湊人にまた会いたいという雪乃自身の強い気持ちの表れでもあったのではないかと思うと胸が締め付けられた。
切ない理由が美しい音楽と共に
秘密にはいろいろな種類がある。大切な人を思う秘密、自分のための秘密、そうせざるを得なかった秘密。雪乃が抱えていた言えない秘密は、いかにして言えない秘密になったのか、その切ない理由が美しい音楽と共に迫ってくる。
とても美しく、耳に残るメロディー
史上最年少で第36回日本アカデミー賞優秀音楽賞(「わが母の記」)を受賞した富貴晴美が「言えない秘密」のために書き下ろし、作品の鍵となる楽曲「Secret」はとても美しく、耳に残るメロディーが印象的だった。今も「Secret」を聴きながら原稿を書いていると湊人と雪乃の姿が自然と思い浮かんでくる。鍵盤を押す音や、ペダルを踏み直す時の独特な音まで聞こえてくる静かな曲の始まりから、2人が会いたいと強く願う気持ちの高揚感そのものが表現されているようなメロディーへつながっていく圧巻の楽曲だった。そして私は、一心不乱に「Secret」を奏でる2人の姿とその理由を今思い返してさらに胸を熱く焦がしている。