誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2024.3.01
お互いを知り、そっと手を差し伸べる「夜明けのすべて」苦しかった! とささやいて笑った
映画館で映画をみた後は、周りで飛び交う感想に耳をそばだてながら帰るのが、私の鑑賞後の楽しみ方だ。他者の生き方や考え方を垣間見ることができる、ささいな趣味である。「夜明けのすべて」を鑑賞後、隣に座っていた同年代であろう女の子が一言、「苦しかった」とささやいて笑った。
この作品に出会えてよかった
劇中では、パニック障害やPMSの症状は人それぞれであることが明言されており、過激な演出もされてはいない。藤沢さん(上白石萌音)や山添くん(松村北斗)の暮らしぶりを通して、彼女が思い出した記憶や感情はどのようなものだったのだろうか。私は想像することしかできなかったが、「『苦しかった』とささやいて笑った」ことで彼女がこの作品に出会えてよかった、と心の中でそっと思った。
ただお互いを知り、そっと手を差し伸べる
映画の良さは、非日常を味わうことができ、その世界観に没入できることだと思っていたが、「夜明けのすべて」のように、私たちの日常に寄り添い支えてくれる映画がもっと必要だと感じた。お涙頂戴では無い。心がじんわりと温まる映画。お互いが持っているものを押し付けあったり、無理に半分ずつ持とうとするのではなく、ただお互いを知り、そっと手を差し伸べること。
秀逸な演出
瀬尾まいこの原作小説「夜明けのすべて」のファンである私は、原作のすーっと心を包んでくれるような雰囲気が大好きだ。映画化にあたり、オリジナルの要素も加えられているが、原作の雰囲気が損なわれておらず、むしろ作品の繊細さや温かさが助長されており、とても秀逸な演出だと感心してしまった。
かわいそうだと思わないでほしい
藤沢さんは、PMSを患っていることを「かわいそうだと思わないでほしい」と言う。これは日常を生きやすくするための魔法の言葉だと感じた。私とあなたは違う。当たり前のことなのだが、忘れがちのことではないだろうか。他者との違いを「かわいそう」と見てしまった時点で、その人とは対話の余地が無い気がしてしまう。他人だからこそ、差し伸べられる手がきっとあることをこの映画は気づかせてくれる。
現在公開中。