映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。
2023.7.02
世界を席巻した韓国映画、投資家離れで製作がストップ! プチョン国際ファンタスティック映画祭:フォーラムルポ②
6月30日韓国・プチョン市高麗ホテルで行われた「メード・イン・アジア・フォーラム・セッション1 韓日映画フォーラム『パンデミック』時代の映画産業 問題と解決方法」。日本側のTBSテレビ映画事業部・辻本珠子さん、映画監督・深田晃司さんの2人のスピーチの後、韓国脚本家協会会長のキム・ビョンインさんが登壇。韓国のポストパンデミックの映画製作事情と展望「Back to the Basic」を発表した。
大手の投資が振るわない
「韓国の映画興行はクリエーター、劇場、投資家のトライアングルで回っている。しかし、パンデミックが起き、そのサイクルのなかから投資家が離脱した」と語った。
「映画振興委員会(KOFIC)の調べでは、今年4月末時点で映画製作費30億ウォン以上のハイバジェット作品に資本家が投資したのは8作品。大手であるCJエンタテインメント、ロッテエンタテインメント1作品と全く振るわない。パンデミック前の2019年が45作品、昨年が36作品だったのに比べると絶望的な数字である」。ちなみにここ韓国で投資家と言うのは、日本で言えば配給や製作委員会、ファンドと置き換えるとわかりやすい。
韓国映画はどん底の状態のまま
「韓国の映画業界は配給においてはCJとロッテをあわせると約30%だが、劇場数は約80%を占める寡占状態。そんな中で19年と22年を比べると動員数54%、興行収入は65%とこちらも苦しい状況が続いている。ここで動員より興収の数字が上回っているのは入場料を値上げしたことによる。また、最新の1~5月集計の動員は外国映画が19年比110%と好調だが、韓国映画は37%とどん底の状態のままである。それにも増して、19年の30億ウォン以上のハイバジェットの映画製作費平均予算は80億ウォンだが、22年は100億ウォンとパンデミック対策などの影響などもあり高騰している。それにより映画投資の収益率が大幅に落ちていることが投資マインドを下げている」と現状を説明した。
二つの商慣習
そこでキムさんは二つの韓国映画業界の問題点を取り上げた。「一つ目は劇場の取り分が大き過ぎること。世界的に見れば、劇場と配給会社の取り分は5:5が平均的数字と言われているが、韓国では6:4と劇場が多くの収入を得ている。先程も申し上げた通りCJとロッテで約80%の劇場を支配する寡占状態であることが起因する。また、二つ目はシネアドの売り上げを劇場が独占していること。作品あってのシネアドなのに配給への返しが1円もないのは問題である。この二つの商慣習が改善されれば配給会社により多くのお金が回収され、投資効率も良くなり、投資家離れも防げるに違いない」と言う。
1〜2作品がほぼ90%のスクリーン
また、その劇場の商慣習から映画の多様性も失われているとキムさんは主張する。「現在の劇場では興行収入上位1〜2作品がほぼ90%のスクリーンを占めて、売り上げの最大化を目指している。そのため、投資家はストーリーの本質よりも、知名度の高い監督や俳優が出演している映画にしか投資しなくなった」
チケットの値上げ
その結果、観客が劇場から離れているとキムさんは指摘する。「パンデミックが起き、配信が市場を席巻したことによって映画視聴習慣が変わった。また、チケットの値上げで確実に面白いと思われるシリーズものに観客が集中するようになった」こともあげた。
Back to the Basic
「上記の二つの問題点、劇場の取り分改善とシネアドの分配を行えば、映画の多様性も守られ、ストーリー重視の作品が市場を回復させる。だから、19年以前までの映画作りの原点『Back to the Basic 基本に戻ろう』ということを強く主張したい」と話を締めくくった。
19年公開の「パラサイト 半地下の家族」が米アカデミー賞作品賞を受賞し、勢いに乗っていた韓国映画業界もここまでパンデミックの影響を受けているのかと、日本人をはじめ外国の参加者は驚きを一様に隠せない発表であった。