映画でも配信でも、魅力的な作品を次々と送り出す韓国。これから公開、あるいは配信中の映画、シリーズの見どころ、注目の俳優を紹介。強力作品を生み出す製作現場の裏話も、現地からお伝えします。熱心なファンはもちろん、これから見るという方に、ひとシネマが最新情報をお届けします。
2023.7.01
映画支える公的システム、早急に 深田晃司監督が訴え プチョン国際ファンタスティック映画祭:フォーラムルポ①
韓国・プチョン国際ファンタスティック映画祭の開催2日目、6月30日午前10時からプチョン市の高麗ホテルにて「メード・イン・アジア・フォーラム・セッション1 韓日映画フォーラム『パンデミック』時代の映画産業 問題と解決方法」と題した発表が行われた。その模様を3回に分けてリポートする。まずはじめに日本の2人の登壇者にフォーカスを当てた。
同映画祭プログラムディレクター、エレン・キムさんの司会によって紹介されたシン・チョル執行委員長が「韓日をはじめとしたアジアの力を合わせてこの難局を乗り越えていきましょう」とあいさつ。
シン・チョル映画祭委員長
その後、司会のバトンを映画プロデューサーのチョ・ナギョンさんに渡し、モデレーターの発表に移った。
諸外国との国際共作は、夢や希望ではない
初めにTBSテレビ・映画事業部辻本珠子さんがパンデミック後の日本の映画興行について説明した。「映画製作者連盟の発表によると日本の映画興行はV字回復を見せているが、それは数少ない本数のアニメーションが大ヒットして数字を支えている。映画館には人が戻ったという肌感覚はあるが、それは少数の大ヒットと大多数の回収不可能な作品の二極化がパンデミック以前よりも進んでいるという一見目につきにくい症状が起こっている」と分析した。「しかし、パンデミックは悪い影響ばかりではなかった。長時間労働、無休暇、遅くまでの打ち合わせ会食などが減り、守ることは守るという常識が現場に出てきた。日本の映画業界も今年から映画制作適正化機構などによる『制作現場適正化認定制度』、『映適マーク』がスタート。映適のルールを守ると映画製作費は1.2倍くらいに増えるという実証発表もある。製作費増を余儀なくされることが、日本だけで作って日本だけで回収するという今までのやり方、常識を変えなくてはならないという転機になるだろう」と語った。「より広い国際セールスや、韓国をはじめとした諸外国との国際共作は、夢や希望ではなく、やらなければならないことだ」との決意でしめくくった。なお、7月よりTBSは、映画事業部内に日本と諸外国との共同製作企画に着手していくべくGlobal Operation Teamを発足した。
TBSテレビ・映画事業部・辻本珠子さん
日本版CNCの設立を
続いて映画監督の深田晃司さんがパンデミック下で行われた日本のミニシアター支援を説明した。「2019年のコミュニティシネマセンターの調べによると日本のミニシアターは全国3627スクリーンのうち217スクリーンで全スクリーンの6%にすぎない。しかし、映画上映本数は1年間1292本に対し、ミニシアターの上映は547本で全体の42%にあたる。まさに日本の映画観客の体験の多様性を支えている。その活動を支えるために日本ではミニシアター・エイドと他に公的資金を要請したSAVE THE CINEMAが行われた。ミニシアター・エイドではクラウドファンディングにより3.3億円を集め、103団体、118劇場に平均300万円を寄付できた。しかし、それは急場しのぎにすぎず文化芸術の継続支援にはほど遠かった」と語った。
深田晃司監督
「ミニシアターは日本の映画の多様性の要である。しかし、そこへの支援は不十分で上映設備の維持にさえ困窮している。ミニシアターに来るお客さんのためにも、多様な映画を守らなくてはならない」。そのために日本版CNCの設立を心を同じくする監督らと求めている。CNCとはフランス国立映画映像センターの略で、映画館、放送局、ビデオグラム販売から税を徴収し、そのお金で映画や映像文化を助成するシステムのこと。「日本はフランスや韓国に比べて文化に対する国の税金の割合が少なく、アメリカやイギリスに比べて文化に対する寄付の習慣も普及してない。日本はフランスや韓国(KOFIC=韓国映画振興委員会)などと同様に映画文化を支える公的システムを作るべきだ。このことは、映画業界の多くが総論賛成なのだが、いざ財源を興行収入から求めるなど具体化していくと足並みがそろわなくなる」と現状を述べた。「外国で宝くじの例などもある。日本の多くの映画やミニシアターは不安定な環境で働く個人の覚悟で成り立っている。人材育成も遅れていて、それらは早急に解決しなければいけない課題である」と訴えた。深田監督は同映画祭で初めて海外の映画賞を受賞しており、思い出深い場所での登壇でよりいっそうの力のこもったプレゼンテーションとなった。