やがて海へと届く(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

やがて海へと届く(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

2022.3.31

トピックス:やがて海へと届く

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

大学に入学した引っ込み思案な真奈(岸井ゆきの)は、自由な雰囲気を持つすみれ(浜辺美波)と出会い、親友になる。しかしすみれはひとり旅に出たまま姿を消し、真奈は数年たっても彼女の不在を受け入れられずにいた。真奈はすみれの恋人だった遠野(杉野遥亮)から彼女が残したビデオカメラを受け取り、すみれが最後に旅をした場所へと向かう。

淡いタッチのアニメーションや残されたビデオカメラの映像、フィクションとドキュメンタリーが交錯するような震災被災者の方たちへのインタビューが挿入され、真奈とすみれの視点の反転もある。いくつかの試みによって、友情以上の結びつきを感じている人が目の前から消えてしまった喪失感があぶり出されているが、それぞれの手法が有機的に結びついていない印象も受けた。

「わたしは光をにぎっている」の中川龍太郎監督が、彩瀬まるの同名小説を映画化した。2時間6分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(細)

ここに注目

震災を遠い背景に、近しい存在を突然失った人の悲しみと戸惑いを丹念に描く。喪失は中川監督が繰り返し描いてきたモチーフだが、今作は悲しみの中に温かい余韻も残る。存在は消えても、残された人には気持ちが残る。目に見えない、名付けようのない感情をこまやかに描いた。(勝)

新着記事