ブッカー賞作家の小説を映画化
第一次世界大戦後のイギリスの田舎町を舞台に、名家の子息と孤独なメイドの秘密の恋を官能的に描いたラブストーリー「帰らない日曜日」が5月27日、全国公開される。ブッカー賞作家グレアム・スウィフトの小説「マザリング・サンデー」の映画化で、カンヌ国際映画祭をはじめ世界中の映画祭で評判を呼んだ話題作。フランス人女性で「バハールの涙」のエバ・ユッソン監督にオンラインで聞いた。見どころや原作への思いから、女性の強さや映画界への意見にまで話が及んだ。
人生を変えた1日を振り返る小説家
孤児院育ちのメイドのジェーンと、幼なじみとの結婚を控えたシェリンガム家の跡継ぎポールは、邸宅の寝室で愛し合っていた。やがて、ポールは昼食会に出かけるが、奉公先の家に戻ったジェーンを思いもよらぬ知らせが待っていた。時がたち、小説家になったジェーンは彼女の人生を一変させたその1日を振り返る。ジェーンに新星オデッサ・ヤング、ポールにはテレビシリーズ「ザ・クラウン」で各賞受賞のジョシュ・オコナー、オスカー俳優のコリン・ファースとオリビア・コールマンが共演した。
「1920年代のイギリスの風景はこの作品にとって極めて重要で、自然や花、太陽が降り注ぐ穏やかな景色が必要だった」。ユッソン監督は、イギリスの地方の上流階級ののどかな生活や自然の美しさの中に、ジェーンとポールの情熱的な禁断の関係を浮き彫りにする。
原作を読んでひかれたのは「ジェーンの人間性が語られていること。すなわち、ジェーンを取り巻く階級や女性のおかれた環境、人種の問題がきちんと表現され、その中で後にアーティスト(小説家)として成長していく物語」だという。いわゆる、コスチュームものの時代劇としては捉えず「あくまでジェーンの生き方に目を向けた」と話す。
階級や人種の制約から自由な主人公
映画では、黒人男性をパートナーとした40代、老年(名優グレンダ・ジャクソンが演じる)の姿も織り込んで、作家ジェーンの生きざまを映し出す。「階級や人種などの制約から自分を切り離し、自ら外に出ることができる女性。自分の肉体や頭の中とも折り合いをつけられる自由な女性像は少ない。彼女の実体験が書くことにつながっていて、小説は体験した現実を自分のものにするための道具。記憶を紙の上に書くことが彼女にとっての創作だった」
ジェーンはその時代にはまれな、意志を持った女性で、その強さが本作の核心の一つだろう。「まさに彼女は強い女性だが、フィーチャーしたいのは、これこそ女性が認める女性だということだ。映画の歴史の中で、男性監督によって描かれてきた女性はか弱く、保護される存在だった。しかし、女性たちが知っている女性は、一度にたくさんのことをするし、しなければならない。それが日常での役割で、あからさまに強いことを前面に押し出さなくても、女性が考える女性は強いということになる」。女性であるユッソン監督が描いたジェーンは、必然的に強い女性と認識される、ということになる。
男性中心の映画界は問題だらけ
ユッソン監督の話は、本作から映画界に広がっていく。「男性監督が多い映画の世界では、女性がこのように描かれることは少ない。フランスは女性監督が多いと言われるが、それでも全体の25%ぐらい。しかも、キャリアを重ね4作目まで撮れるのは7%程度しかいない。女性監督を増やすにはまだまだ時間がかかる」
「映画を作るときに脚本の分析ミーティングみたいなものがあって、作るかどうか、予算はどのくらいかを決めるが、例えば10人出席していたら女性は1人ぐらい。女たちの経験が語られていたり、抑圧されている女性を描いたりしている脚本は、大半の男性によって拒否される。ディシジョンメーカー(最終決断する人)が男性ばかりなのが問題だ」
話は取り上げるテーマにも及ぶ。「全人類の共通のテーマが出産と死だが、なぜか死ぬ映画ばかり作っている。しかも、映画で死ぬのは90%ぐらいは男性。なぜ、出産、誕生の映画を作らないのだろうか。流血もサスペンスもスリラーもあるのに。そうした映画を作るには、女性がディシジョンメーカーとなって、お金や権利を握らないとダメだと思っている」と締めくくった。
5月27日全国公開。
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