© 朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」製作委員会

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2023.2.28

「少女は卒業しない」この時にしか得られない一生涯の宝物!

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

山田あゆみ

山田あゆみ

「まだ何も終わっていないし、何も始まっていない。卒業おめでとう」。2007年のリクルートのコマーシャルで使われた言葉だ。チャットモンチーの楽曲「サラバ青春」にのせて、学生たちが桜の前にたたずむそのコマーシャルを、よく覚えている。当時高校3年生だった私は、その言葉にハッとさせられた。エールというよりは、活を入れられたようだった。「油断するな、人生これからだぞ」と。実際のところ高校を卒業してから16年たち、大学進学や就職などいろいろなことがあった。高校時代の思い出はだんだんと薄れてきている。そして、高校生が主人公の青春映画を見るときには、どうしても他人ごとの感覚になってしまった。
 

彼女らの心の揺れ動きに深く共感し、懐かしむ

しかし、映画「少女は卒業しない」は10代の頃の初々しい気持ちや、忘れておきたかった切ない気持ちを思い出させてくれた。大人になった今だからこそ、彼女らの心の揺れ動きに深く共感し、懐かしむことができた気がしている。
 
「少女は卒業しない」は、卒業式と共に廃校になる高校を舞台に、4人の女子高生のドラマを描いた青春映画だ。答辞を読むことになった、山城まなみ。上京が決まり、地元に残る彼氏と気まずさがある後藤由貴。卒業ライブの準備に奔走する、軽音楽部部長の神田杏子。内気で図書室通いしている作田詩織。それぞれが好きな人や大切な場所とお別れをする、卒業式とその前日の2日間を描いている。

 

こんな先生がいたらな

中でも、作田と図書室の坂口先生とのやり取りが印象深い。友達がいない作田は、卒業式の後、皆が卒業アルバムにメッセージを書いたり、写真を撮り合ったりする時間に、独りぼっちになるのが不安だった。坂口先生は作田に、勇気を出してクラスメートに話しかけるように勧める。ただし、「相手の言うことに絶対に同意しないこと」というアドバイスを付け加えて。そして、作田はやっと話すことができたクラスメートとの会話で坂口先生のアドバイスを実行して、気まずい空気になってしまう。先生の真意は、「周りに同調して自分の意見を消してしまわないでほしい」という願いだったのだと思う。少しわかりにくい先生のアドバイスは、私が作田でも不思議に思うだろう。アドバイスの真意をあえて示さなかった先生の姿勢と、見守るような距離のとり方があたたかい。先生の本意にすぐには気づかなくても、作田の今後の人生で、いつか振り返る一つの思い出になるんじゃないだろうか。こんな先生がいたな・・・・・と羨ましくもなった。
 

独占欲が可愛さになるのは、10代の特権

また、好きな人の秘密を抱えていた軽音楽部の神田の姿は、ひとことでは言えない甘酸っぱい気持ちを思い出させてくれた。神田は中学からの同級生で、現在は同じく軽音楽部に所属する森崎にひそかに思いを寄せていた。神田の中で、森崎に関する秘密を自分だけのものにしておきたい気持ちと、自慢したい思いがせめぎあっていたのだ。独占欲が可愛さになるのは、10代の特権じゃないだろうか。映画で描かれていない高校3年間にも思いをはせてしまう。今作は、全編においてあまり音楽を使っていない。その分、軽音楽部の演奏がより一層際立ち、最後には大きな感動につながる。この映画の中の見せ場に、神田がうれしいような寂しいような複雑な気持ちを抱くのも、また恋の味わいだろう。
 
まだ何も終わっていないし、何も始まっていない
他にも、高校生たちのさまざまな心模様を見せてくれる今作。青春の切なさだと簡単にくくれない悲しさや葛藤。未来への希望と、変わっていくことへの焦りや寂しさ。さまざまな感情が入り交じるこの瞬間は、泣いても笑っても卒業とともに戻れない過去に変わる。彼女らの過ごした2日間は、長い人生において「まだ何も終っていないし、何も始まっていない」時なのかもしれない。だが彼女たちの揺れ動く感情は全て、この時にしか得られない一生涯の宝
物に違いない。

現在、全国公開中。

河合優実主演作「少女は卒業しない」初披露に「映画が放たれた」 東京国際映画祭 - ひとシネマ (mainichi.jp)

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ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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