毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.01
「十一人の賊軍」 反権力を貫く名もなき罪人たちのドラマ
1868年から続いた、旧幕府軍と薩摩藩・長州藩中心の新政府軍(官軍)が争った戊辰戦争を背景にした抗争劇。旧幕府勢力の奥羽越列藩同盟に加わりながら、新発田藩が同盟を裏切ったエピソードが下敷き。新発田藩の命運を握る11人の罪人が、あるとりでを守るために身を投じた壮絶な戦いを描いた。「仁義なき戦い」の脚本家、笠原和夫が残したプロットを「孤狼の血」の池上純哉が脚本化、白石和彌が監督した。
スケール感のあるオープンセット、リアルなつり橋などスタッフの力を結集。生身の動きが伝わる殺陣や爆破シーンと派手なアクション満載のエンタメに仕上げた。一方で、為政者ではなく名もなき罪人たちのドラマにこだわったのは、庶民の目線を大切にしてきた白石監督ならではの権力者への痛烈な批判ともいえる。罪人や弱者を最も危険な最前線の場所に送る発想自体が、古今東西に通じ、壮絶なラストまで繰り返される。劇的な高揚感と歴史観も揺さぶる一作。主演は山田孝之と仲野太賀。2時間35分。東京・丸の内TOEI、大阪・T・ジョイ梅田ほか。(鈴)
ここに注目
笠原和夫は「仁義なき戦い」「大日本帝国」など、戦中戦後日本の権力を撃ち続けた。本作を貫くのも徹底した反権力。山田孝之演じる政は、家族を守ることだけを目的として行動するのに、権力者に踏みにじられ悲劇の運命をたどる。白石監督は、笠原の怒りを受け継いだ。(勝)