毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.10.11
「二つの季節しかない村」 壮大な自然に対比される人間の欲望や虚栄心
トルコ・東アナトリア地方の小さな村。この辺境の地に嫌気がさした美術の男性教師、サメット(デニズ・ジェリオウル)は都会への転勤を望んでいる。ある日、目をかけていた女子生徒から〝不適切な行為〟を学校に告発されたサメットは窮地に陥り、知人に紹介された女性教師ヌライ(メルベ・ディズダル)との関係もこじれていく。
「雪の轍(わだち)」などのトルコの名匠、ヌリ・ビルゲ・ジェイランによる3時間18分の人間ドラマだ。春を挟まず夏がやってくる雪深い村。ジェイラン監督はその壮大にして荒涼とした冬景色と、利己的な欲望や虚栄心にとらわれた人間のちっぽけさを鮮烈に対比する。グチと皮肉を連発するサメットは好感度皆無の主人公だが、テロに巻き込まれて片足を失ったヌライ、女子生徒や同僚との人間関係が激しくうねる後半が実にスリリングだ。人生の機微や変遷を季節の移ろいに重ねた映画はよくあるが、雪の下から現れる枯れ草にまで寓意(ぐうい)を含ませた本作の深遠さには驚かされる。ディズダルはカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほか。(諭)
ここに注目
カッパドキアが舞台の「雪の轍」と同じく、自然を映し出したシーンと、かみ合わないセリフのやり取りのギャップが静かにすさまじい。ひたすら紅茶を飲みながら繰り広げられる会話から浮かび上がるのは、人間の身勝手さや愚かさ。長尺だが、映像と言葉の力によって最後まで引き込まれた。(細)