「徒花-ADABANA-」

「徒花-ADABANA-」©︎2024「徒花-ADABANA-」製作委員会 / DISSIDENZ

2024.10.18

「徒花-ADABANA-」 クローンが問いかける生きる意味

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

新次(井浦新)は妻と一人娘の3人で暮らしていたが、重い病にむしばまれ、ある病院で療養するものの終末期を迎えようとしていた。手術を前に、臨床心理士、まほろ(水原希子)の提案で過去の記憶を呼び戻すが、不安はぬぐえない。裕福な人間だけに身代わりとして提供される、「それ」と呼ばれる自分と同じ見た目だが知的なクローンと対面する。

「赤い雪 Red Snow」で注目された甲斐さやかの監督2作目。死を目前にした人の精神のさまよいとクローンという近未来の産物を同居させ、自身が生きてきた道程や生きることとは何かへの思索を促す。クローンの存在を、命や人間存在を考える一つの材料として提示した。人間の怖さやいとおしさをかすかにちりばめる程度としたためか、感情的な抑揚に乏しく視点の置き場に戸惑うこともしばしば。物語の流れや回想も明白とはいいがたく、観客が自由に切り取って考える作り。アート色に浸りつつ、楽しむべきは新次やまほろらの生きざまから透けて見える運命と、生きる意味への問いかけではないか。1時間34分。東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)

異論あり

ガラス張りの無機質な病院と、その周囲に広がる深い森。精緻な撮影、美術、音響によって構築された映像世界に魅了される。ところが随所に挿入される回想シーンがあまりにも断片的で、ドラマとしての引力は希薄。見ているこちらの感情までも漂流してしまい、もどかしさをぬぐえなかった。(諭)

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