毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「BAUS 映画から船出した映画館」©本田プロモーション BAUS/boid
2025.3.21
「BAUS 映画から船出した映画館」 多くの人に愛された文化空間の約90年
2014年に惜しまれつつ閉館した東京・吉祥寺の映画館「吉祥寺バウスシアター」。1925年に吉祥寺初の映画館「井の頭会館」が生まれ、ムサシノ映画劇場、バウスシアターと形を変えながら多くの人に愛された文化空間の約90年が描かれる。
バウスの総支配人だった本田拓夫の著書を元に故青山真治監督が脚本化を進めていたが、青山監督が22年に急逝し、甫木元空(ほきもとそら)監督が引き継いだ。東北から上京して井の頭会館と出合い、その後、劇場社長に任命される主人公を染谷将太、その息子タクオの晩年をロックミュージシャンの鈴木慶一が演じる。
老人となったタクオの回想を入り口に、戦前の活弁、トーキー映画、戦火、経済発展を遂げた戦後――と、映画館と吉祥寺の変遷が映し出される。映画館を巡る記憶といえば、イタリア映画の傑作「ニュー・シネマ・パラダイス」(88年)を連想するが、本作の叙情度はそれより控えめだ。むしろ喪失の記憶、未来への目線を一緒に意識させられる、不思議なエンドとなっている。1時間56分。東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田ほか。(坂)
ここに注目
「後悔しない人生なんてつまらない」「映画は皆さんの心を作る」など刺さるセリフの数々に感心。エピソードのかけらは時代とともに積み重なり、究極の映画(館)愛に昇華。その先に見据えるのは人生を懸命に生きた人への賛辞だ。音楽と人の鼓動が織りなすリズムが、映画のもう一つの柱になった。(鈴)