毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.9.20
「画家ボナール ピエールとマルト」 夫妻の愛の深淵に見る者を誘う
何気ない日常を色彩巧みに描いたフランスの画家、ピエール・ボナール(1867~1947年)。印象派に続くナビ派の代表格で、浮世絵などから影響を受けた画風でも知られる。生涯で描いた約2000点のうち、3分の1が伴侶マルトの姿だ。
実話に基づく映画は1893年、ボナール(バンサン・マケーニュ)が謎めいて型破りなマルト(セシル・ドゥ・フランス)にひかれ、同せいするところから始まる。彼女をモデルにした赤裸々な絵画は展覧会で高く評価されるが、2人の関係と愛はエゴや虚言、精神の不調などを伴い、緊張感を帯びていく。
印象的なのは、まずボナールの絵が現れ、そこから室内の背景に移っていく視線の移動だ。2人が暮らしたセーヌ川沿いの映像も美しい。ボナールは、マルトが好きだった入浴を描いた作品が多く、彼女の死で悲嘆にくれて5年後に他界したことはよく知られたエピソードだが、それらを納得させる展開だ。
監督は「セラフィーヌの庭」などで知られる名匠、マルタン・プロボ。2時間3分。東京・シネスイッチ銀座。大阪・テアトル梅田(10月4日から)など全国で順次公開。(坂)
ここに注目
無垢(むく)で孤独な女性画家セラフィーヌ・ルイの人生を描いた「セラフィーヌの庭」が忘れがたいプロボ監督。本作でも典型的な伝記映画を逸脱し、画家とその妻の愛の深淵に見る者を誘う。狂気にも似た混乱の日々の中ににじみ出る情感の純粋さに胸を打たれ、夫妻が暮らす川辺の風景にも魅了された。(諭)