毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2025.1.24
「蝶の渡り」 複雑な歴史のなかで懸命に生きる人々
1991年、ジョージア。ソ連からの独立を間近に控え、にぎやかに新年を祝う若者たち。独立を宣言するが、すぐに新たな戦争が始まる。27年後、画家のコスタ(ラティ・エラゼ)が暮らす祖父母の代からの古い家に集まったのは、かつての芸術家仲間。そこに戻ってきたコスタの元恋人ニナ(タマル・タバタゼ)に、アメリカ人コレクター(マイケル・レスリー・チャールトン)が一目ぼれしてしまう。
貧しい暮らしを強いられているコスタをはじめ、登場人物たちはどこか楽観的だ。アートと音楽に囲まれ、雑然としたなかに美があり、手をつなぐ人々の間にはあまり根拠はなさそうだが確かな希望があるように見える。監督・脚本は、「シビラの悪戯」などを手がけ、俳優として「金の糸」で主演を務めているナナ・ジョルジャゼ。より良い暮らしを求めて祖国を出ようとする者、同じ場所にとどまろうとする者。人々の人生を〝蝶(ちょう)の渡り〟になぞらえ、記録映像も織り込みながら、複雑な歴史を持つジョージアの歩みを描き出している。1時間29分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・ヌーヴォ(2月8日)ほか全国で順次公開。(細)
ここに注目
国や街、時が違っても人生を深く感じる作品に出合うことがある。世間の波にもまれながら、懸命に生きる姿が心に響くからだ。本作も、悲喜こもごもの味わいに満ちたラストの余韻が至福の時間を与えてくれる。それだけに、主人公たちの青春時代が記録映像だけでつづられたのは物足りなかった。(鈴)