チャートの裏側

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2024.9.13

チャートの裏側:原点に返れたかエイリアン

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

SF映画の金字塔「エイリアン」は、1979年8月6日に東京都内の新宿プラザで見ている。夏興行真っただ中、あの大きな新宿プラザを埋め尽くした若い観客たちの興奮の度合いが、今もありありとよみがえる。全く新しいSF映画、恐怖映画を見た異様な感覚があったのだろう。

このシリーズは何本も作られてきたが、新作の「エイリアン:ロムルス」は、1作目の続編的な内容をもつ。1作目の真骨頂であったエイリアンの恐怖感を、宇宙船の密室空間の中で、とことん描く。3週前に記した米娯楽大作の「原点返り」志向を象徴する一本だと言える。

当然ながら、身も震えるエイリアンのビジュアルは、すでに知られている。2作目以降は、そこを踏まえバリエーションを変えていった。こちらも当然の製作手法だが、狙いが「原点返り」となると話は違ってくる。エイリアンの恐怖を描いたとして、「原点」に返れるのか。

今回、エイリアンの造形は申し分ない。怖さも存分に感じられる。ところが、恐怖感覚の肌合いは1作目とはまるで違う。体全体に食い込んでこないのだ。既視感は、どうしようもない。客層はシリーズファンが多いと聞いた。最終の興行収入は10億円台には乗るだろうが、「エイリアン」の「原点返り」は少々無理だったのではないか。繊細極まる題材なのである。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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