ひとしねま

2024.6.07

チャートの裏側:母娘のアクションに感涙

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

後半に至るあたり、つるべ打ちのアクションシーンに興奮し過ぎて涙が出た。手に汗握るレベルではない。映画の中に、うれしいときと悲しいときに流す涙は味が違う、というセリフがある。興奮して流す涙は、どのような味だろうか。「マッドマックス:フュリオサ」である。

このシリーズは、熱狂的な男性の支持者が多い。ところが今回は、都心中心ながら、女性層が比較的目立つという。主人公のフュリオサは女性だ。女性アクションものとしての体裁が、女性層の関心を若干高めたか。男性層の集客も安定し、興行収入15億円以上は狙える。

フュリオサの母親が、幼い娘を連れ去られて追いかける。走り出した馬の後ろに飛び乗るのだが、その敏捷(びんしょう)さが素晴らしい。下りるときも同様だ。娘も崖を軽々と登る。その俊敏さは母譲りだ。成長した彼女は、バイク集団が追う大型タンク車の下に潜り込み、細やかで力強い瞬発力を見せる。

怒濤(どとう)のアクション展開に涙さえ流し母娘の切れ味鋭い肉体技に心をつかまれる。ときに過度な映像の技術力が人間描写をないがしろにしてしまうハリウッド娯楽大作とはまるで違う。人が映画の中心点にいるからだ。女性ヒーローものの金字塔だろう。本作はシリーズの独自性から何歩も進み出た。女性層のさらなる広がりに期待したい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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