毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2025.1.10
「エマニュエル」 抑圧されてきたセクシュアリティーの解放
1974年に公開され、過激で自由な性描写から社会現象になった「エマニエル夫人」が、全く新しい現代の官能映画としてよみがえった。ホテルの品質を査察するエマニュエル(ノエミ・メルラン)は、香港の一流ホテルに滞在してサービスや設備を報告する中で、謎の男シノハラやプールの常連客の女ゼルダと交流を深め、快楽の世界に誘われていく。
リメーク感は全くない。規律や厳格さを追求する孤独な仕事に就いていたエマニュエルが、自分をさらけ出し、男性社会が定めたエロチシズムを大胆に打ち破っていく。「あのこと」のオードレイ・ディバン監督は、エマニュエルを性の興奮と陶酔を求めて自ら踏み出す女性として捉え、抑圧されてきた女性のセクシュアリティー解放も描き出す。女性だけでなく男性に対しても、固定観念や人工的な性表現からの逸脱を促している。流麗で色彩豊かなカメラワークやビジュアルの美しさに加え、「燃ゆる女の肖像」のメルランも実に魅力的。1時間45分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)
ここに注目
あらゆる細部まで人工的に整えられた高級ホテルの快適さと無機質さ。スタイリッシュなカメラワークを駆使した魅惑的な空間描写は、自分の殻に閉じこもった主人公の内的世界の隠喩のよう。その半面、これといったストーリーが展開しない時間帯が長く、まだるっこしさを感じたことも否めない。(諭)