Audrey Diwan
映画監督、脚本家「あのこと」(2021年)監督・脚本「エマニュエル(原題)」(2024年)監督・共同脚本
1970年代に若い女性観客を魅了し大ヒットした「エマニエル夫人」が、舞台を現在に移し「エマニュエル」としてよみがえった。性的欲望を解放し自由に官能を求める女性の姿を、大胆かつ刺激的なエロチシズムとともに描いた。監督は「あのこと」(2021年)でベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したオードレイ・ディバン。「『エマニエル夫人』が想起する娯楽的なエロスへの期待を、フェイントをかけてかわしつつ、異なる視点で新たな官能的な映画を生み出した」と話した。 エマニュエルが開ける快楽の扉 ホテルの品質調査の仕事をするエマニュエルは、オーナー企業からの依頼で香港の高級ホテルに滞在しながら査察を進める...
鈴木隆
2025.1.26
1974年に公開され、過激で自由な性描写から社会現象になった「エマニエル夫人」が、全く新しい現代の官能映画としてよみがえった。ホテルの品質を査察するエマニュエル(ノエミ・メルラン)は、香港の一流ホテルに滞在してサービスや設備を報告する中で、謎の男シノハラやプールの常連客の女ゼルダと交流を深め、快楽の世界に誘われていく。 リメーク感は全くない。規律や厳格さを追求する孤独な仕事に就いていたエマニュエルが、自分をさらけ出し、男性社会が定めたエロチシズムを大胆に打ち破っていく。「あのこと」のオードレイ・ディバン監督は、エマニュエルを性の興奮と陶酔を求めて自ら踏み出す女性として捉え、抑圧されてきた女性...
2025.1.10
「あのこと」は60年前のフランスが舞台だが、遠い国の過去の物語ではない。描かれるのは、未来を選ぶ自由を奪われた女性の孤独な闘いだ。オードレイ・ディバン監督は、人工中絶を懸命に求める主人公に、観客が〝なりきる〟ことを狙ったという。ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。 ノーベル賞作家の小説を映画化 原作はノーベル文学賞作家、アニー・エルノーの小説。ディバン監督が読んだのは、自身が中絶した後、「考えを深めるため」だった。「小説はスリラーのようだったし、主人公が自由を求めているすがたにひかれた」という。その後しばらくして、「違法中絶の実態を知らないまま議論に加わっていた」と気づき...
勝田友巳
2022.12.05
5年で日本を3000キロ縦断 東北の震災で家族を失ったジャーマンシェパード犬の多聞(たもん)は、離れ離れになった大切な人に会うため5年の歳月をかけて日本を3000キロ縦断する。その途中で出会った人々は多聞と過ごす時間のなかで心が癒やされ人生に希望を見いだしていく。人と人とをつなげながら旅する多聞はどこへ向かっているのか――。 「ラーゲリより愛を込めて」にもクロという犬が 瀬々敬久監督、林民夫脚本と言えば「ラーゲリより愛を込めて」が記憶に新しい。戦後10年、ラーゲリ(収容所)で強制的に働かされた日本人たち。この生活はいつまで続くのか、果たして祖国に帰れる日は来るのか……と希望を見い...
PR東宝
2025.3.10
言語や文化を超えて登場人物と一体感を味わえるのが、映画の魅力の一つ。未知のことを疑似体験し、他者を理解する助けとなる。しかしこの映画、かなりしんどい。堕胎という、産まない性には決して体験できない、産む性であってもおそらく経験したくないことに肉薄する。主人公の苦しみを自分事として感じることで、賛否の分かれる問題に新たな視点が開くだろう。 1960年代、人工妊娠中絶が違法だったフランスで、女子大生のアンヌの妊娠が発覚する。成績優秀、将来を期待されるアンヌは、子どもが生まれたら大学を続けられず、夢も未来も失うと焦り、中絶の方法を求めて奔走する。 アンヌにはあけすけにセックスを語る友人がいるし、か...
2022.12.02
フランスでは長い間、人工妊娠中絶が法律で禁じられてきました。それが合法となったのは1975年のことに過ぎません。今回ご紹介する「あのこと」は、まだ堕胎が違法だった63年のフランスを舞台として、妊娠した学生が中絶を模索するという作品です。2021年にベネチア国際映画祭の最高賞、金獅子賞を受賞しました。 1963年、中絶非合法のフランスで妊娠した女学生 アンヌは、男の子の関心を引くことばかりを考えているようなクラスメートと違って、勉強ひと筋の大学生です。文学の研究を進めて将来は先生になることを目指していて、その学力は先生にも一目置かれている存在です。両親は上流階級の出身ではありま...
藤原帰一
2022.12.01
エマニエル・アルサンによる官能文学を原作に映画化され、全世界でヒットを記録した「エマニエル夫人」(1974年)。本作は、「あのこと」(22年)でべネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した新鋭オードレイ・ディバンが、新しい解釈で50年ぶりに蘇らせた。主演は、「燃ゆる女の肖像」(20年)や「TAR/ター」(23年)のノエミ・メルラン。ウィル・シャープやナオミ・ワッツらが共演に名を連ねている。第37回東京国際映画祭「ガラ・セレクション」部門で上映。 仕事でオーナーから査察依頼を受けたエマニュエルは、香港の高級ホテルに滞在しながら調べ始めるが、ホテル関係者や妖しげな宿泊客たちとの交流は、彼女を禁断の快楽へ...
1960年代、法律で中絶が禁止されていたフランス。大学生のアンヌは予期せぬ妊娠をするが、学位と未来のために今は産めない。選択肢は一つ。 アンヌの毎日は輝いていた。貧しい労働者階級に生まれたが、飛びぬけた知性と努力で大学に進学し、未来を約束する学位にも手が届こうとしていた。ところが、大切な試験を前に妊娠が発覚し、狼狽する。タイムリミットが迫る中、自らが願う未来をつかむために、たった1人で戦う12週間。 公開:2022年12月2日 配給:ギャガ © 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILMS