Audrey Diwan
映画監督、脚本家「あのこと」(2021年)監督・脚本「エマニュエル(原題)」(2024年)監督・共同脚本
「あのこと」は60年前のフランスが舞台だが、遠い国の過去の物語ではない。描かれるのは、未来を選ぶ自由を奪われた女性の孤独な闘いだ。オードレイ・ディバン監督は、人工中絶を懸命に求める主人公に、観客が〝なりきる〟ことを狙ったという。ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。 ノーベル賞作家の小説を映画化 原作はノーベル文学賞作家、アニー・エルノーの小説。ディバン監督が読んだのは、自身が中絶した後、「考えを深めるため」だった。「小説はスリラーのようだったし、主人公が自由を求めているすがたにひかれた」という。その後しばらくして、「違法中絶の実態を知らないまま議論に加わっていた」と気づき...
勝田友巳
2022.12.05
言語や文化を超えて登場人物と一体感を味わえるのが、映画の魅力の一つ。未知のことを疑似体験し、他者を理解する助けとなる。しかしこの映画、かなりしんどい。堕胎という、産まない性には決して体験できない、産む性であってもおそらく経験したくないことに肉薄する。主人公の苦しみを自分事として感じることで、賛否の分かれる問題に新たな視点が開くだろう。 1960年代、人工妊娠中絶が違法だったフランスで、女子大生のアンヌの妊娠が発覚する。成績優秀、将来を期待されるアンヌは、子どもが生まれたら大学を続けられず、夢も未来も失うと焦り、中絶の方法を求めて奔走する。 アンヌにはあけすけにセックスを語る友人がいるし、か...
2022.12.02
フランスでは長い間、人工妊娠中絶が法律で禁じられてきました。それが合法となったのは1975年のことに過ぎません。今回ご紹介する「あのこと」は、まだ堕胎が違法だった63年のフランスを舞台として、妊娠した学生が中絶を模索するという作品です。2021年にベネチア国際映画祭の最高賞、金獅子賞を受賞しました。 1963年、中絶非合法のフランスで妊娠した女学生 アンヌは、男の子の関心を引くことばかりを考えているようなクラスメートと違って、勉強ひと筋の大学生です。文学の研究を進めて将来は先生になることを目指していて、その学力は先生にも一目置かれている存在です。両親は上流階級の出身ではありま...
藤原帰一
2022.12.01
エマニエル・アルサンによる官能文学を原作に映画化され、全世界でヒットを記録した「エマニエル夫人」(1974年)。本作は、「あのこと」(22年)でべネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した新鋭オードレイ・ディバンが、新しい解釈で50年ぶりに蘇らせた。主演は、「燃ゆる女の肖像」(20年)や「TAR/ター」(23年)のノエミ・メルラン。ウィル・シャープやナオミ・ワッツらが共演に名を連ねている。第37回東京国際映画祭「ガラ・セレクション」部門で上映。 仕事でオーナーから査察依頼を受けたエマニュエルは、香港の高級ホテルに滞在しながら調べ始めるが、ホテル関係者や妖しげな宿泊客たちとの交流は、彼女を禁断の快楽へ...
1960年代、法律で中絶が禁止されていたフランス。大学生のアンヌは予期せぬ妊娠をするが、学位と未来のために今は産めない。選択肢は一つ。 アンヌの毎日は輝いていた。貧しい労働者階級に生まれたが、飛びぬけた知性と努力で大学に進学し、未来を約束する学位にも手が届こうとしていた。ところが、大切な試験を前に妊娠が発覚し、狼狽する。タイムリミットが迫る中、自らが願う未来をつかむために、たった1人で戦う12週間。 公開:2022年12月2日 配給:ギャガ © 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILMS