「ぼくが生きてる、ふたつの世界」

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」©五十嵐大/幻冬舎 ©2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会

2024.9.27

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」 はざまで揺らぐ等身大の若者の成長譚

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

宮城県の港町で生まれた男の子、大(吉沢亮)は、耳がきこえない両親と手話で意思の疎通を行い、時には母、明子(忍足亜希子)の〝通訳〟をしながら育った。しかし小学生になると周囲の好奇の目に気づき、反抗期には母を疎ましく思い始める。やがて20歳になった大はこれといった夢もなく上京し、ろう者のグループと知り合い……。

耳がきこえない両親を持つ聴者(コーダ)である五十嵐大の自伝的エッセーの映画化。大好きだった母に寄り添いたいのに、世間の偏見にいら立って反発してしまう。物語はそんな主人公、大の視点で進行し、きこえない世界/きこえる世界のはざまで揺らぐ彼の葛藤を見つめていく。また母子の絆を描く家族劇にとどまらず、主人公が社会に出てさまざまな出会いや経験を重ねていく後半では、東京/田舎の故郷というふたつの世界も対比させ、等身大の若者の成長譚(たん)としてもリアリティーあふれる作品となった。主人公の心の奥底に渦巻く複雑な感情を、繊細かつ清冽(せいれつ)に表出させたラストシーンも素晴らしい。呉美保監督。1時間45分。東京・シネスイッチ銀座、大阪ステーションシティシネマほかで公開中。(諭)

ここに注目

原作では中盤で描かれた忘れがたい場面が、映画では素晴らしいラストシーンになっている。母から子への無償の愛と、息子から母への後悔と気づきと感謝。すべてが胸に迫り、涙を抑えられなかった。ろう者の俳優のキャスティングやコーダ監修など、監督の誠実な映画作りも特筆に値する。(細)

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