「本を綴る」

「本を綴る」©ストラーユ

2024.10.11

時代の目:「本を綴る」 市井の人へ温かいまなざし

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

自身の作品が人を傷つけたという後悔から小説を書けなくなった作家の一ノ関(矢柴俊博)は、全国を旅して本にまつわるエッセーを連載していた。那須の古書店で手にした本の間に挟まれていた古いラブレターを見つけ、訪れた京都でその宛先を探し当てる。宛名の女性は他界していたが、その孫、花(遠藤久美子)と出会う。花は恋人を亡くした心の傷を抱え、一ノ関に促されるまま香川を訪れた。一ノ関も、再び物語をつむぐために自身の過去と向き合う。

篠原哲雄監督が、東京都書店商業組合のYouTubeドラマを基に、新たに創作したロードムービー。本を介して人が出会い、エピソードがリレーのようにつながってゆく。市井の人たちを温かいまなざしで見つめた小さな物語は、「月とキャベツ」など篠原監督の初期の作品を思わせる。

一方、一ノ関が訪ねる那須の図書館や京都の個性的な書店などが取り組んでいる、本と親しむ工夫や紙の本の味わいを見せ、書店の置かれた現状も映し出す。書店が消えていく昨今、そこは人と人が言葉を交わし、思わぬ本と巡り合える場だと改めて教えてくれる。映画が示す新たな書店の形は、本の未来となるだろうか。1時間47分。東京・新宿K's cinemaほかで公開中。全国でも順次。(勝)

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