「こんにちは、母さん」 ©2023「こんにちは、母さん」製作委員会

「こんにちは、母さん」 ©2023「こんにちは、母さん」製作委員会

2023.9.08

「こんにちは、母さん」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

福江(吉永小百合)は東京・向島で、夫が残した足袋店を1人で切り盛りしている。一人息子の昭夫(大泉洋)は大企業の人事部長で、会社の人員整理に悩み、妻とも別居中。昭夫の娘で大学生の舞(永野芽郁)が、家出して福江の元に身を寄せた。福江は路上生活者支援のボランティアに精を出し、まとめ役の牧師、荻生(寺尾聰)に恋もしている。昭夫は母親の変わりように大慌て。

吉永が母親を演じる、山田洋次監督の「母もの」3作目。下町の人情を背景に福江の恋模様を描くコメディーだが、それだけではない。山田監督は現代社会に強いまなざしを向けて、企業の非情さや働くことの意義、老いの不安、戦争の傷痕まで織り込んだ。

「男はつらいよ」から変わらぬ下町の人情描写も、今やファンタジーめいてしまったが、ある種の理想郷として羨ましい。そして、作り込んだセットといいメリハリを利かせた演出といい、なくしてほしくない日本映画の粋が凝らされている。

1時間50分。東京・丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほかで公開中。(勝)

異論あり

吉永が「どっこいしょ」と立ち上がるなど、端々におばあちゃんらしさも漂う役を演じて好感。ラストの晴れやかな笑顔にサユリストもご満悦では。ただ息子の葛藤や対応には現実感が薄く、なんでそうなるかと疑問符の連打。祖母の引き立て役でしかない孫娘にも一波乱ほしかった。(鈴)