毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.6.02
「渇水」
市の水道局員の岩切(生田斗真)は、同僚の木田(磯村勇斗)と料金を滞納している家庭を訪ね、徴収と停水を執行している。日照りが続き給水制限が発令される中、2人は有希(門脇麦)の借家で支払いを拒絶される。1週間後に訪ねると、有希は男と出かけて帰らず、幼い姉妹2人はなけなしのお金を渡そうとする。岩切は家中のありったけの入れ物に水をためて停水を執行する。
育児放棄や貧困、格差社会を背景にしつつ、主軸は岩切の内面に据えた。岩切は妻子と向き合えず、妻子は実家に戻ったまま。タイトルの意味が次第に、岩切やその妻、有希やその娘たちの心情と重なっていく。派手な演出や必要以上の説明がなく、悩みや苦境が強い日差しとともに焼き付けられる。高橋正弥監督は終盤、岩切に「小さなテロ」を決行させ、同時に姉妹の心をかすかな解放へと導く。普段なら、ご都合主義とか甘いなどと思いがちだが、違和感がない。河林満の原作とは異なるラストはカタルシスで満たされる。1時間40分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)
異論あり
筆者も貧乏時代に電気や電話を止められたことがあるが、〝止める側〟の葛藤を描いた本作の視点は新鮮だった。水道局員の業務を通して、格差などの問題をあぶり出す物語にも引き込まれるが、作り手の優しさゆえか、描写に鋭さや厳しさが感じられなかった。もっと衝撃的な作品になりえたのでは。(諭)