チャートの裏側

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2024.11.22

チャートの裏側:言葉で距離を縮めていく

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

後編は、「派手になるだろう」と、少し前の当欄で書いた。違った。派手にはならなかった。「室井慎次 生き続ける者」のことだ。前編「敗れざる者」は、警察を早期退職した室井の田舎暮らしを中心に描いた。後編も、その流れを突き進んだ。事件は現場で起こらない。

刑事ドラマとして一時代を築いた「踊る大捜査線」とは似て非なる2部作だった。後編もまた前編同様に、室井の「家族」と、彼が暮らす共同体の人間模様を描く。興味深い点があった。青島刑事の「踊る」と同じく、「室井慎次」もまた、ヒーロー劇に着地したことである。

もちろん今回、室井は事件の解決に秀でた青島的ヒーローではない。言葉のヒーローと言ったらいいか。齟齬(そご)を見せていた周囲と、言葉のやりとりだけで開いた距離を縮めていく。罪を犯した者を含め、経験に裏打ちされた自身の思いを愚直に、淡々とぶつけるのみである。

ただ、その推移は、ご都合主義的にも見える。わだかまりや敵意を抱いていた相手が、室井の言葉によって、すんなりと穏やかになるからだ。ありえないが、これをやってのけてしまうのが、いかにも「踊る」らしい。エンタメ大作としてのヒーローの意味がそこにある。前編の延長に見えて、その実、全く別様の後編になったと言える。「踊る」を終わらせてなるものか。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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