毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.10.25
この1本:「破墓/パミョ」 素性が分からぬ怖さ
この春、韓国で大ヒット、1200万人を動員したオカルトホラー。世代を超えて血縁で受け継がれる怨念(おんねん)、土地や墓にとりつく霊魂、あるいは霊のよりしろとなる巫堂(ムーダン)や土地の吉兆を占う風水師という存在など、日本と通じるアジア的恐怖描写を、韓国映画らしい迫力と技術で大いに見せる。一方で、ハリウッド的な分かりやすさに収束してしまったところはいささか拍子抜け。日韓ホラー観の違いも垣間見えて、興味深い一作。
巫堂のファリム(キム・ゴウン)とボンギル(イ・ドヒョン)は、代々、長男が不運に見舞われるという大富豪シヨンから、除霊を依頼された。ファリムは祖先の墓に原因があると気づき、風水師サンドク(チェ・ミンシク)、葬儀師ヨングン(ユ・ヘジン)と共に、改葬を行うことになる。墓には奇異な点が次々と見つかり、シヨンの家族も秘密があるらしい。掘り出したひつぎの蓋(ふた)が開けられ、「何か」が外へ出てしまう。
キリスト教を背景とした善悪二元の西洋ホラーが、死霊でも悪魔でも物理的攻撃を加えてくるのとは趣を異にして、ここでは実体がなく素性も分からない。柱となるのは風水や陰陽五行といった呪術的、アジア的な宗教観だ。悪意を持って襲ってくるのに目に見えず正体不明、これほど不気味で怖いものはない。
山頂の墓、周囲に現れる凶兆、おどろおどろしい儀式といった道具立てがたくみで、影を強調した映像によるあおりも抑え気味なのが効果的。災いの元を封じて一件落着と思いきや……という期待通りの展開も頃合いを外さず仕掛けてくる。映像表現の迫力と語り口のうまさは抜群だ。ところが後半、ラスボス的存在が登場したあたりから、次第に〝普通〟のホラーっぽくなってしまう。予定調和的なオチがついては、幽霊の正体見たり……という気分。
ちなみに韓国での公開時に反日的と一部で話題になった。確かに日韓史を背景に日本(の悪霊)が悪役として登場するが、そこは物語のあや。むしろちょっとズレた日本描写に苦笑い。チャン・ジェヒョン監督。2時間14分。東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)
ここに注目
Netflixで配信中の「サバハ」で新興宗教の闇を描き、異彩を放ったチャン監督。今回も風水や埋葬、陰陽思想などの知識をふんだんに盛り込み、異形のスリルみなぎる恐怖劇に仕上げた。主人公たちが〝前代未聞の悪地〟にたたずむ墓に到着するまでの導入部からして引き込まれる。章立て形式の脚本も巧みで、よくある悪霊ものかと思いきや、後半に強大なラスボスを出現させる二段構えの構成がすごい。いかがわしさとプロ意識を併せ持つ4人組の人物造形と、それを演じた俳優陣も実に魅力的だ。(諭)
技あり
チャン監督が売れっ子、イ・モゲ撮影監督と組み、現実感重視のルック(映画の外形)で撮った。導入の改葬場面で、サンドクとヨングンが墓から遺骨を取り出し、故人は腹が減っていると指摘する。孫が思い出に入れ歯を隠し持っていたのをサンドクが見つけた時の一族の反応の分かりやすさ。儀式後、街路樹の幹で画面の半分が塞がれた葬儀屋の短い情景。才能を感じた。シヨンの一族の改葬では、祈とうでトランス状態になるファリム、周りのサンドクやヨングンのサイズと角度が的確で、さすがと納得。(渡)