「プロミスト・ランド」 ©️ 飯嶋和一_小学館_FANTASIA

「プロミスト・ランド」 ©️ 飯嶋和一_小学館_FANTASIA

2024.6.28

「プロミスト・ランド」 自然への畏怖と映像に目を見張る豊かな時間

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1980年代、春の山形県庄内地方。マタギ衆の寄り合いで親方の下山(小林薫)は、熊の減少を理由に熊狩りが禁止されたと伝える。しかし、礼二郎(寛一郎)だけは反発。後日、鶏舎で働く20歳の信行(杉田雷麟)を訪ね、2人で熊狩りに挑む計画を持ち掛ける。信行は幼い頃、礼二郎に命を救われた恩義があり、兄のように憧れていた。ある日の早朝、2人は山に向かう。

雪解け水の急流、風に揺れる木々の音、雪を踏みしだく長靴のきしむ音が山に響き、雪の白と木々の黒の水墨山水画のような中を、ひたすら歩く2人のシーンが続く。いびつな起伏や木々の茂り、道なき道を進んでいく姿に力強さが宿っていく。設定もシンプルで、登場人物は少なく、会話もわずか。昨今の説明過多の日本映画とは正反対の作風だ。共感とか感動、興奮とは別次元の映像に目を見張り、凝視する豊かな時間。マタギやそのおきては知らずとも、自然への畏怖(いふ)とともに、映画への向き合い方や感じ方までも改めて思い起こさせてくれる作品である。飯島将史監督。1時間29分。東京・ユーロスペース。大阪・テアトル梅田(7月5日から)など全国で順次公開。(鈴)

ここに注目

2人が山に入るまでのなりゆきを30分程度で手際よく見せると、後は延々と熊を捜して歩くだけ。劇的展開を期待せず、心して見るべし。空模様や光の加減、地形や植生の変化で刻々と画面は移り変わる。稜線(りょうせん)から見る景色の壮大なこと。熊狩りの神秘性の一端も感じられるだろう。(勝)

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