毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.5.19
「最後まで行く」
12月29日の夜。危篤の母の元へと車を走らせていた刑事の工藤(岡田准一)は、一人の青年をはね飛ばし、死なせてしまう。遺体をトランクに入れた工藤の携帯電話に届いたのは「お前は人を殺した。知っているぞ」というメッセージ。送り主は県警本部の矢崎(綾野剛)だった。
オリジナルは、フランスなどでもリメークされた韓国映画「最後まで行く」。日本版を「ヴィレッジ」をはじめ、公開作が相次ぐ藤井道人監督が手がけた。大筋はオリジナルをなぞりながら、土葬から火葬など細部を巧みに手直しして人間関係の描写もより濃厚に。何よりも社会の裏側でうごめく権力へのまなざしに、藤井監督らしさが光る。
スピード感のある緻密な脚本と、バラエティー豊かなアクションで見せ場の連続だが、監督作として意外だったのは、笑えるシーンも織り込まれていること。人間が極限まで追い込まれたときの滑稽(こっけい)さを、岡田と綾野が顔の筋肉まで存分に駆使して体現している。まさに最後の瞬間まで見る者を引きつける、熱量あふれるエンターテインメントだ。1時間58分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(細)
異論あり
よく見ればご都合主義の偶然に頼ったお話を、勢いで見せ切れるかが勝負。大筋はそのままに、韓国版からの移植にあたって文化風俗の違いなど巧みに微調整、息もつかせぬ展開で押し切った。ただ工藤のビビりぶりや矢崎の酷薄さ、それに終盤の大立ち回りなど、大仰な演出はいささかやり過ぎでは。(勝)