「侍タイムスリッパー」

「侍タイムスリッパー」©2024未来映画社

2024.8.23

「侍タイムスリッパー」 あふれ出す時代劇への愛

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は藩の密命を受けて長州藩士(冨家ノリマサ)と刀を交えるが雷に打たれ気を失う。目を覚ますとそこは現代の時代劇撮影所。剣の腕を頼りに時代劇の斬られ役として生きるが、かつての時代劇の大スターが宿敵の役に高坂を指名する。大スターは高坂が狙った長州藩士だった。

自主製作で挑んだチャンバラ活劇だが、拾い物どころかすこぶる面白い。実直な武士と現代の映画人が生み出す笑いや、立ち回りの緊迫感だけでなく、時代劇への愛がそこかしこからあふれ出す。侍スピリットや個々のキャラクターも分かりやすく描かれた、あっという間の2時間11分だ。山口の実直さ、冨家の哀愁、高坂を助ける助監督(沙倉ゆうの)への恋心などてんこ盛りだが、混迷もせず独りよがりでもない。現代劇と時代劇をサラリと融和させ、娯楽映画に徹した潔さが作品の背骨になり、東映京都の熟練のスタッフが支えた。カナダ・モントリオールのファンタジア国際映画祭で観客賞金賞を受賞。安田淳一監督。東京・池袋シネマ・ロサで公開中。全国でも順次公開予定。(鈴)

ここに注目

侍がタイムスリップというアイデアに新しさはなくても、斬られ役俳優に焦点を当ててバックステージものとしたところが秀逸。廃れゆく時代劇に向けた撮影所の情熱と武士の意地が重なり、映画は熱い。文句なく楽しめる。自主製作の小規模公開から火が付いた「カメラを止めるな!」の後を追えるかも。(勝)

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