やすだ じゅんいち
1967年生まれ、映画監督「侍タイムスリッパー」(2023年)
カンヌから届いた一枚の写真で始まった2023年5月22日の朝が今でも忘れられない。映画祭のメイン上映館であるリュミエール大劇場、2300席に及ぶ客席をぎっしりと埋め尽くす観客、ミッドナイトスクリーニング部門正式出品作「プロジェクト・サイレンス」の上映が終わっていた。23年前、復学生と現役の3年生として出会った中央大学演劇映画学科の後輩、金泰坤(キムㆍテゴン)の2本目の長編商業映画。デビュー作から7年という長い待ち時間を無駄にしないほどの大作で、20億円近くの予算がかかったCJ ENMのブロックバスターだった。「やった」。スマホを見ながらベッドで歓声を上げた。自分のことのように興奮せずにはいられ...
洪相鉉
2024.12.30
自主製作の時代劇「侍タイムスリッパー」が、熱い。8月17日、東京・池袋のシネマ・ロサ1館だけで上映が始まると、卓抜なアイデアと時代劇に向けられた愛情、自主製作とは思えない完成度の高さが話題となり、SNSで推し口コミが広がっている。映画作りの舞台裏を熱く描いていること、シネマ・ロサでの単館上映スタートと、社会現象となった「カメラを止めるな!」との共通点もあり、「さむタイ」をここから世界へ!と盛り上がっているのだ。 幕末の会津藩士が現代の京都撮影所へ 「侍タイムスリッパー」の物語は、幕末の京都から始まる。長州藩士、山形彦九郎暗殺の密命を受けた会津藩の高坂新左衛門は、彦九郎との斬り合...
勝田友巳
2024.9.05
幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は藩の密命を受けて長州藩士(冨家ノリマサ)と刀を交えるが雷に打たれ気を失う。目を覚ますとそこは現代の時代劇撮影所。剣の腕を頼りに時代劇の斬られ役として生きるが、かつての時代劇の大スターが宿敵の役に高坂を指名する。大スターは高坂が狙った長州藩士だった。 自主製作で挑んだチャンバラ活劇だが、拾い物どころかすこぶる面白い。実直な武士と現代の映画人が生み出す笑いや、立ち回りの緊迫感だけでなく、時代劇への愛がそこかしこからあふれ出す。侍スピリットや個々のキャラクターも分かりやすく描かれた、あっという間の2時間11分だ。山口の実直さ、冨家の哀愁、高坂を助け...
2024.8.23
本作は、「拳銃と目玉焼」(2014年)、「ごはん」(17年)に続く未来映画社の劇場映画第3弾。幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイスリップ、磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として第二の人生に奮闘する姿を描く。監督は、本作が長編3作目となる安田淳一。「自主映画で時代劇を撮る」という無謀さに、「脚本が面白い」と、東映京都撮影所が特別協力。わずか10名足らずのロケ隊で撮りあげた笑いあり涙ありのチャンバラ活劇は、衰退しつつある時代劇への愛あふれるオマージュと、作品の完成度の高さに、インディーズ映画から全国区となった「カメラを止めるな」(17年)を想起させるという声も。主演は、藤田まこと主演「剣客...