「聖なるイチジクの種」

「聖なるイチジクの種」©Films Boutique

2025.2.14

「聖なるイチジクの種」 国の闇をエンターテインメントに昇華して世界に届ける覚悟

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

反政府デモが行われているイラン。国家公務に従事するイマン(ミシャク・ザラ)は念願の予審判事に昇進する。しかし、仕事内容は反政府デモ逮捕者の起訴状を捏造(ねつぞう)することだった。そんなさなか、護身用に支給された銃が家から消える。銃を隠したのは、誰なのか。任務を遂行しようとするイマン、家庭の平穏を優先する妻ナジメ(ソヘイラ・ゴレスターニ)、自由を求める2人の娘。それぞれの思いが交錯し家族が分断されていく様が、サスペンスフルに描き出される。

背景にあるのは、ヒジャブ着用の取り締まりを受け、身柄を拘束された女性の死をきっかけにした2022年の〝女性・命・自由〟運動。この家族がイラン社会の縮図であることは明確で、終盤には息もできない展開が待ち受けている。映画製作によって有罪判決を受けたモハマド・ラスロフ監督は、自国を脱出し、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。イランという国の闇をエンターテインメントに昇華して世界に届けようという監督の覚悟を感じる一本だ。2時間47分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(細)

ここに注目

反政府運動への弾圧が続いていたイランで、こうした映画が作られたことが驚き。しかも面白い。家族第一のナジメは、市民弾圧に加担して苦しむイマンを「仕事だから」と説得する。一方イマンは、家庭内では暴君となる。支配構造が内面化された社会での、変革の困難さと必要性を考えさせるのだ。(勝)

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