毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女」 ©2023LETTERBOX FILMPRODUKTION/SevenPictures Film/Real Film Berlin/Amalia Film/DOR FILM/Lago Film/Gretchenfilm/DCM/Contrast Film/blue Entertainment
2025.2.07
「ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女」 〝加害者〟へと変容していった数奇な軌跡
第二次世界大戦中のドイツでナチに協力し、数百人ものユダヤ人を密告したステラ・ゴルトシュラーク(パウラ・ベーア)。ジャズシンガーを志し、アメリカ行きを夢見ていた若く享楽的なユダヤ人女性は、なぜ同胞を売るようになったのか。その数奇な軌跡を描く実録歴史劇だ。
軍需工場での強制労働、身分証を偽造する青年との潜伏生活、ゲシュタポによる残忍な拷問。キリアン・リートホーフ監督はこれらの悲劇的なエピソードを通して〝被害者〟としてのステラを描く一方、強制収容所行きを逃れるため、次第に積極的な〝加害者〟へと変容していった彼女の罪の重さを映し出す。時系列に沿って戦後の裁判まで映像化したストーリー展開は、いささか断片的な印象が否めないが、「水を抱く女」などで知られるベーアの迫真の演技、臨場感のこもった描写に引き込まれる。あまりにも複雑で衝撃的なステラの人生は、同情することも一方的に断罪することも難しい。その白黒をつけるのではなく、不穏な現代への警鐘を鳴らそうとした作り手の意図が感じ取れる一作だ。2時間1分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(諭)
ここに注目
リートホーフ監督は「ぼくは君たちを憎まないことにした」で、テロリストに妻を奪われた男のその後を描いた。今作でも加害者と被害者の間に明確な境界線を引かず、歴史の暗い面を描き出す。目を背けたくなるような拷問シーンもあり、自分ならどんな選択をするのかという重い問いが胸に残った。(細)