毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.4.19
特選掘り出し!:「異人たち」 大林作品「時空超え」読み替え
ロンドンのマンションの高層階に住む脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)は、幼少期を題材にしたシナリオのリサーチのため、かつて住んでいた実家を訪れる。そこには12歳の頃に事故で他界した父(ジェイミー・ベル)と母(クレア・フォイ)が、昔と変わらぬ姿で住んでいた。同じ頃、アダムは同じマンションに住む青年、ハリー(ポール・メスカル)と愛し合うようになる。
原作は1988年に大林宣彦監督が映画化した、山田太一の小説「異人たちとの夏」。大林版と同様、ホラー的な要素を効果的に入れながら、大きな相違点はアンドリュー・ヘイ監督が自身の経験を織り込み、主人公を同性愛者として描いたことだろう。大林監督が東京・浅草を舞台に描き出した郷愁は本作にも漂っているが、ヘイ監督が親子の対話を通してより色濃く描いたのは、時代によって異なる性的マイノリティーのあり方かもしれない。不思議な再会を果たした両親に、アダムはセクシュアリティーを告白し、時空を超えて抱きしめられたのではなかったのか。〝異人たち〟というタイトルの真の意味とともに、エンディングの切ない余韻がいつまでも残った。1時間45分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(細)