毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.29
特選掘り出し!:「ザ・バイクライダーズ」 栄枯盛衰を哀歓豊かに
1960年代後半のアメリカでは、バイクに乗ったギャングや流れ者を主人公にしたアウトロー映画が盛んに作られた。本作はシカゴを拠点にしたバイク集団〝アウトローズ〟の日常を記録したダニー・ライオンの写真集に触発された一作。「ラビング 愛という名前のふたり」以来となるジェフ・ニコルズ監督、8年ぶりの新作だ。
シカゴ在住の若い女性キャシー(ジョディ・カマー)が、バイククラブに所属する謎めいた若者ベニー(オースティン・バトラー)と出会い、電撃的に結婚。一方、カリスマ的なリーダーのジョニー(トム・ハーディ)は、巨大化するクラブを制御できなくなり、敵対勢力との抗争に疲弊していく。
バイクの疾走シーンや暴力描写も盛り込まれているが、単純なアクション映画ではない。バイクと自由を愛した男たちの共同体がたどる栄枯盛衰の軌跡、一つの時代の終焉(しゅうえん)を哀歓豊かに映し出す。
主人公3人が織りなす信頼とすれ違いのドラマも味わい深い。とりわけベニーとジョニーが闇の中で対峙(たいじ)し、望まぬ決別へ向かうエピソードは、神話の悲劇のよう。ニコルズ監督の復活を待ちわびたファンの期待も裏切らない出来ばえだ。1時間56分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)