「WALK UP」 ©2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED.

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2024.6.28

「WALK UP」 人間を肯定するまなざし

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画監督のビョンス(クォン・ヘヒョ)は疎遠だった娘のジョンス(パク・ミソ)を連れて、旧友のインテリアデザイナー、ヘオク(イ・ヘヨン)の家を訪ねる。彼女が所有する地上4階、地下1階のアパートの階を上がるたび、ビョンスと女たちの人間模様が描かれていく。

小さく豊かな作品を撮り続けるホン・サンス監督の長編28作目。酔っ払ったら踏み外してしまいそうな階段を上がって違うフロアに行くと、そこにはもしもあのとき別の選択をしていたら?という妄想の先の物語が広がっている。全て昼間のまどろみのなかで見る夢のようでもあり、今もどこかで繰り広げられている現実のようでもあり。異なる時系列がつながっていくような仕掛けもユニークだ。

美しいモノクロの映像、監督の分身のような主人公、見る者を引き込む長回し、人生の本質が浮かび上がるたわいのない会話など、今回もホン・サンスらしさが全開。監督の作品には、何歳になっても揺れたり惑ったりするのが人間なのだと、肯定してくれるようなまなざしがある。1時間37分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・テアトル梅田ほか。(細)

ここに注目

定点観測のようなカメラで、アパートの住人の表と裏を映し出す。監督自身がモデルと思われる男が、ある女性の前では菜食主義で健康を気にしていたのに、次の場面では違う女性の前で肉をほおばり、堂々とたばこを吸う。それが人間だろ、と観客をけむに巻く監督のにやりとした顔が浮かんでくる。(光)

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