「山女」©YAMAONNA FILM COMMITTEE

「山女」©YAMAONNA FILM COMMITTEE

2023.6.30

「山女」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

18世紀後半、冷害で苦しむ東北の村。17歳の凜(山田杏奈)の一家は先々代が起こした火災の責任を負い、村人からさげすまれ、差別されて生きてきた。ある日、凜の父伊兵衛(永瀬正敏)が村の蔵から米を盗む。凜は犯人を捜す村人の前でとっさに父をかばい、自ら村を去る。凜は足を踏み入れてはならないとされる山奥の森に向かう。そこで出会ったのは山男(森山未來)だった。

遠野物語の民話に着想を得た福永壮志監督と長田育恵のオリジナル脚本は、簡潔で歯切れがいい。村社会の風習と閉鎖性、身分や性差別の中で、一人の女性が自然を受け入れ生き抜く姿を描いた。強い意志を持って変貌していく凜を、山田がたたずまいと瞳の強さで体現。森の木々や土、岩などが発する「気」や生命力に包まれ、神秘性までもまとっていく。森の緑の陰影や彩度まで映す、静寂だが力強い映像に魅せられた。それだけに、山で自由に生きる凜をもう少し見たかった。村の重鎮である品川徹やでんでん、白川和子がいかにもの役で安定感。

1時間40分。東京・ユーロスペース、大阪・シネ・ヌーヴォほか。(鈴)

ここに注目

江戸時代の寒村を舞台に封建制度の抑圧と差別を描きながら、福永監督の目は現代に向けられている。共同体の維持を優先し弱者に憎悪を向けさせて、犠牲になるのは物言わぬ女性たちだ。山の中で解放され自由に息ができるようになった凜が、表情を和らげていくさまが美しい。(勝)