毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.10.18
特選掘り出し!:「若き見知らぬ者たち」 物語支えた技巧的な映像
自主製作の「佐々木、イン、マイマイン」(2020年)で注目された内山拓也監督の、商業映画デビュー作。若手の人気俳優がそろったが、描くのは前作同様、片隅で思うに任せぬ人生と苦闘する若者だ。今回は兄弟の物語である。
彩人(磯村勇斗)は昼は工事現場で働き、夜は死んだ父親が開いたカラオケバーを切り盛りしながら、脳の難病を患う母親(霧島れいか)の介護もしている。弟の壮平(福山翔大)は格闘技のタイトル戦を控えた有力選手だが、母親の介護のためにバイトを辞められない。父親の借金の返済にも追われ、彩人の恋人、日向(岸井ゆきの)の助けを借りて、兄弟は心身ともギリギリの生活を送っている。
彩人は誰のせいでもない不運を背負い、理不尽な悪意や敵意にさらされながら、誠実さを捨てない。壮平も、格闘技を極めることで人生の意味を見いだそうとする。歯を食いしばる人たちのきしみが聞こえてきそうな重苦しい物語を、俳優陣の好演と、カメラがパンする長い1カットの中に回想を盛り込むといった技巧的な映像が支えた。作る側の肩に力が入り過ぎた感もあるが、胸に迫る一作。1時間59分。東京・丸の内ピカデリー、大阪・T・ジョイ梅田ほかで公開中。(勝)