毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2025.1.31
特選掘り出し!:「雪の花 ともに在りて」 すがすがしい夫婦愛
大ヒット中の「侍タイムスリッパー」、ゴールデングローブなど各賞受賞の米ドラマ「SHOGUN 将軍」など、時代劇への関心が高まる中、黒沢明監督の愛弟子、小泉堯史監督の完成度の高い力作の登場だ。
江戸時代末期、伝染病の疱瘡(ほうそう)(天然痘)が多くの命を奪っていた。福井藩の町医者、笠原良策(松坂桃李)は異国に種痘(予防接種)という方法があると知り、京都の蘭方医(役所広司)の教えを受けて疱瘡撲滅に突き進んでいく。
名誉や利益を求めず、命がけで病人に寄り添う良策の姿は誠実で、ただただすがすがしい。仕事に真っすぐに向き合う純粋さを松坂が晴れやかに演じ、説教臭さなどみじんもない。妻千穂(芳根京子)の行動力、献身ぶりもさわやかで、夫婦愛の物語でもある。病人のために何としてもという思いは、コロナ禍で奮闘し続けた医療従事者を想起させていっそう心洗われる。
小泉組のベテランスタッフが丁寧な仕事で画面を支えた。とりわけ、先ごろ亡くなった名カメラマン上田正治が写した、夏の緑や冬の吹雪といった自然の光景にはフィルムの力強さが宿る。原作は吉村昭の小説。1時間57分。東京・丸の内ピカデリー、大阪・あべのアポロシネマほかで公開中。(鈴)