sub6「劇場版 アナウンサーたちの戦争」©2023NHK

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2024.8.17

森田剛は〝本気度〟が違う 役にのめり込み深めてゆく技術 「アナウンサーたちの戦争」

映画やドラマでよく見かけるようになったあの人、その顔、この名前。どんな人?と気になってるけど、誰に聞いたらいいのやら。心配無用、これさえ読めば、もう大丈夫。ひとシネマが、お教えします。

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森田剛が主演を務めたテレビドラマを劇場版にアップグレードさせた「劇場版 アナウンサーたちの戦争」が全国公開中。太平洋戦争のさなか、「電波戦士」としてプロパガンダ要員に駆り出されたアナウンサーたちの苦悩や絶望を暴き出す壮絶な内容となっており、アナウンサー役を熱演した森田の力演には圧倒される。


太平洋戦争を扇動した天才アナウンサーの苦悩

国内屈指の人気アナウンサー・和田信賢は、業界内でも「天才」と評される表現力の持ち主。だが、戦時下で彼の声は、〝兵器〟として利用されてしまう――。事実を知らされることのないまま、渡された原稿を読むしかない和田は日本軍の快進撃をドラマチックに伝え、玉砕精神を植え付け、本人のモットーとする「虫眼鏡で調べて望遠鏡でしゃべる」とは裏腹にフェイクニュースで民衆を扇動していく。

学徒出陣実況の任を課せられるも、若人たちの「死にたくない」という本音を知っているがために耐えられず離席し、土砂降りの中で「どうかお聞きください国民の皆様! 彼らはもう二度とここに帰ってこないのであります!」と涙ながらに叫ぶ姿は、まさに圧巻だ。声のプロフェッショナルであるアナウンサー役に説得力をもたせながら、激しい感情を爆発させる森田の技術力と感性が結集した名シーンといえる。


出演作は少なくても強烈ラインアップ

舞台・映画・ドラマ等々、さまざまな形態で活躍してきた森田の俳優活動。出演作の数自体は決して多くはないものの、「少数精鋭」という言葉がふさわしい強烈なラインアップとなっている。生田斗真が大庭葉藏役で主演した映画「人間失格」(2010年)では中原中也に扮(ふん)して話題を集めたが、転機となったのはやはり「ヒメアノ~ル」(16年)であろう。のちに「空白」(21年)や「ミッシング」(24年)を世に放つ鬼才・吉田恵輔監督が古谷実の同名マンガを実写映画化し、森田は連続殺人鬼・森田正一を怪演。

善悪のボーダーを飛び越えた、えたいの知れなさや狂気性をほとばしらせ、新境地を開拓した。この森田という役は、殺人に快楽をおぼえるモンスターに見えて、かつて壮絶ないじめを受けていた被害者でもある。ハードかつ多面的な役柄に血肉を与え、鑑賞中と鑑賞後で観客の印象を変化させられたのは、森田の功績によるところが大きいのではないか。


近寄りがたさと孤独

「ヒメアノ~ル」以降、「DEATH DAYS」(21年)、「前科者」(22年)、「白鍵と黒鍵の間に」(23年)、ドラマ「インフォーマ」(23年)に出演してきた森田。こうして縦軸でみると、彼は「近寄りがたいほどの何かを放つも、実は孤独な人物」が抜群にハマる。犯罪者の更生を助ける保護司を描いた「前科者」では、人生をねじ曲げられ、殺人を犯してしまった男を熱演。たたずまいからして、壮絶な過去を予想させる役への入り込みを披露していた。1980年代後半の国内ジャズシーンを描いた「白鍵と黒鍵の間に」では、音楽を愛する無鉄砲なヤクザを好演。近寄りがたさを笑いに変えるファニーな芝居で、主人公のピアニストに扮した池松壮亮との凸凹ぶりで魅了する。

そして「インフォーマ」では犯罪請負人に扮し、路上でターゲットに火をつけるなど凶行に及ぶ際も眉一つ動かさないような冷徹かつ狂的な男を力演している――のだが、回を追うごとに彼の悲しい過去が明かされてゆき、またもやイメージを反転させる。ディズニープラス「ガンニバル」をグローバルヒットさせ、Netflix「ガス人間」の製作も発表された片山慎三監督による映画「雨の中の慾情」(11月29日公開予定)でも、鑑賞前・鑑賞中・鑑賞後で役のイメージをどんどんスライドさせる森田の得意技がさく裂している。

森田剛の出演作は、本気度が違う――。彼の芝居を追っている者の胸には、そんな期待が宿っているのではないか。そして彼もまた、上がり続けるハードルに驚異的なパフォーマンスで応え続けている。「劇場版 アナウンサーたちの戦争」「雨の中の慾情」に続く次なる出演作の発表を、かたずをのんで待っている観客は少なくないはずだ。

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ライター
SYO

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1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。

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