23日シネスイッチ銀座にて 撮影=吉田航太

23日シネスイッチ銀座にて 撮影=吉田航太

2022.7.25

「戦争は誰も幸せにしない」あの時代を伝えたい 「島守の塔」公開記念舞台あいさつ

第二次世界大戦中の最後の官選沖縄知事・島田叡、警察部長・荒井退造を主人公とした「島守の塔」(毎日新聞社など製作委員会)が公開される(シネスイッチ銀座公開中、8月5日より栃木、兵庫、沖縄、他全国順次公開)。終戦から77年、沖縄返還から50年。日本の戦争体験者が減りつつある一方で、ウクライナでの戦争は毎日のように報じられている。島田が残した「生きろ」のメッセージは、今どう受け止められるのか。「島守の塔」を通して、ひとシネマ流に戦争を考える。

鈴木隆

鈴木隆

沖縄戦を描いた映画「島守の塔」の公開記念舞台あいさつが7月23日、東京・シネスイッチ銀座で行われ、出演した萩原聖人、村上淳、香川京子と五十嵐匠監督が登壇した。
 

コロナ禍で撮影中断1年8カ月

映画は、太平洋戦争末期に国内で唯一の地上戦となった沖縄で、「死ね」と迫る国や軍に対し、県民に「生きろ」と命の尊さを叫んだ島田叡知事と荒井退造警察部長の2人の官僚と、知事付となった軍国少女、凜ら戦争に翻弄(ほんろう)される県民の姿を描く。新型コロナウイルスの影響で1年8カ月の中断を経て完成した。
 島田役の萩原は、開口一番「暑い中、コロナ(の感染状況)が大変な中、この作品を選んでいただいて心から感謝します」。荒井役の村上は、舞台に上がる急な階段で、後年の凜を演じた香川の手を取って壇上に。「香川さんと同じスクリーンに映ることは感無量です」と敬意を込めて一言。香川も「暑く、世の中が落ち着かない中、ご来場いただきありがとうございます」とお礼の言葉を述べた。
 

芝居への思いが変わった

五十嵐監督は「沖縄に何度も通って脚本を書き直した。中断後の再撮影では役者さんの芝居への思いが変わっていた」と明かした。
 
「若き凜を演じた吉岡里帆さんは『以前に撮影したシーンをもう一度撮り直させてほしい』と言い、村上さんは脚本を読み込んで何度も電話してきて、セリフの言い回しなどを聞いてきた」。萩原とは「映画のポイントのひとつである『てるてる坊主』をどう歌うか」話し合ったという。
 
1953年に大ヒットした「ひめゆりの塔」にも出演した香川については、「香川さんが出られなければ最後のシーンは全部カットするつもりだった」と話し、「思いを込めて演じてくれた」と感謝の言葉を口にした。
 
五十嵐監督の言葉を受けて、村上は五十嵐監督の「誠実であきらめない監督に相談しようと思った」と振り返った。さらに、撮影現場で「萩原聖人という役者のエネルギーに満ちた芝居をじかに受けて、はじき返すのが精いっぱいだった。役者としてとても幸せなこと。役者人生半分。いい作品に巡り合えたことを観客の皆さんに心より感謝したい」と話した。
 
香川は「何十年も前に演じた映画『ひめゆりの塔』のことを思い出した。当時は、沖縄であれほどの悲劇があったことをほとんどの人が知らず、映画が公開されて関心を持った人がたくさんいた。今は戦争のことをご存じない人が多くいる」と語り、「今もひめゆり学徒隊の生き残りの方々と交流があり、あの時代のことを伝えていかなければいけないという使命感みたいなものがあってやらせていただいた」と振り返った。
 

沖縄にとって戦争は終わっていない

映画の中で凜がお参りする「島守の塔」についても、「ああいう塔を作られた沖縄の方の気持ちを思うと胸がいっぱいになった。二度とあんなことがあってはならないと改めて思いました」と、言葉をかみしめるように話した。
 
五十嵐監督は「先月も沖縄の荒崎海岸で戦没者と思われる遺骨が見つかった、という話を聞いた。沖縄戦は、沖縄の人にとって終わっていないと感じた。島田知事と荒井警察部長の2人の生き方がこの映画のメッセージになっている」と力強く述べた。
 
最後に、萩原が観客に向けてメッセージ。「僕自身、戦争を体験したわけではないので、本当の戦争のことは何も知らないかもしれない。でも、戦争は誰も幸せにしない、ということを強く感じています。この作品を選んでくれた今を生きる皆さんに心から感謝します」
 
シネスイッチ銀座で公開中。順次全国で公開の予定。

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
ひとしねま

吉田航太

よしだ・こうた 毎日新聞写真部カメラマン