©「ファンファーレ」製作委員

©「ファンファーレ」製作委員

2023.11.12

若いのはつらい、でもだんだん年をとっていくのはもっとつらい。「ファンファーレ」は誰のために奏でられるのか?

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

宮脇祐介

宮脇祐介

11月17日公開「ファンファーレ」。これはハマった。「アルプススタンドのはしの方」や「サマーフィルムにのって」などが好きなオジがころっとやられた。
 
アイドルをやめた2人とこれからアイドルをやめようとしている1人。3人で結成されたアイドルグループ・ファンファーレは大石万理花(水上京香)と須藤玲(野元空)が抜け、残った西尾由奈(喜多乃愛)と新たな4人のメンバーで存続していた。時は新型コロナウイルス禍真っ最中。由奈の卒業配信ライブを盛り上げようと、次の夢を追っている先にやめた2人が、それぞれ夢の続きのダンスと衣装で花を添え盛り上げるとの企画が持ち上がった。快く応じた2人だったが・・・・・・。

 
この物語のズルいところは主役の若い3人に散々思いを寄せさせておいて、物語の3分の2あたりでころっと若いと思っていた彼女たちに、さらに若い後輩から「若干古め」と指摘される姿を見せるところ。せっかく久々の3人の再会のギクシャク感がうまくいったように見えていたのに。
 
そして、先にアイドル以外の夢を追った2人の新たな夢との葛藤。万理花はアイドルの中ではうまいと思っていたダンスも、ダンス単体で勝負するとプロの壁に阻まれる。玲は服飾の世界の現実に直面し、夜遅くまで雑用に追われる。若いのはつらい、でもだんだんと年をとっていくのはもっとつらい。
 
そんな2人にさらなる追い打ちが「若干古めな振り」という後輩の何気ないひとこと。これって結構心くじかれる瞬間なんだなあ。せっかくまとまりかけてきた由奈の卒業ライブ直前にそれを根底からひっくり返すようなトラブルが起きるのだ。

 
「古め」とはとても怖い言葉だ。すでに57歳の僕でさえ、たとえばひとシネマのZ世代のライターたちの原稿に赤を入れていることも、会社の後輩を笑わせようと発した言葉も、息子たちに話しかけても、趣味のイベントで選曲する音楽も・・・・・・。行動するたびに「古め」という言葉が聞こえてくるようだ。直接言ってくれれば取り繕って笑えるが、心の声は表情とかで読み取るしかない。しかも、それがリモートだったら面白いことを言ったつもりでも、眉間(みけん)にしわを寄せて液晶を見つめ確認するしかない。
 
でもね「古め」って考えてみると個性じゃないのか? 人は習ったことや行動したことしか身につかない。その過去経験した成功も、失敗も含めて「古め」の積み重ねが自分なのだ。それにだんだん気づいてくることが大人の階段を上るということではないだろうか。
 
アイドルを辞めて大人のとば口をくぐった2人と今まさにそこへ向かおうとしている1人の姿がとてもすがすがしく印象的な映画。
 
付け加えればダンスの、服飾メーカーのもっと「古め」の先輩がとても良いリードをしている。存在と言葉にジンときたよ。
 
劇場を出たらちょっと痛いヒロインたちとめちゃくちゃ痛い自分自身の「それでも生きていくこれから」へのファンファーレが聞こえたような気がした逸品なのである。

ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

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