1991年11月に初来日し、記者会見するブルース・ウィリス

1991年11月に初来日し、記者会見するブルース・ウィリス

2022.5.26

さよなら、ありがとう、ブルース・ウィリス:バンドを連れて初来日 91年「ラスト・ボーイスカウト」宣伝マンが語る大物伝説

失語症を理由に引退を表明した、ブルース・ウィリス。1980年代からアクション、スリラー、コメディーやシリアスドラマまで、ジャンルをまたにかけた作品で、映画ファンを楽しませてくれた。大物感とちゃめっ気を併せ持ったスターに感謝を込めて、その足跡と功績を振り返る。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

ブルース・ウィリス全盛期の1990年代から2000年代初めにかけて、日本市場はハリウッド映画の大得意のお客さんだったから大物スターがこぞって来日し、宣伝に精を出したものだった。ウィリスも「ダイ・ハード」(88年)の配給収入(興行収入から劇場側の取り分などを除いた売り上げ)が11億8000万円、「ダイ・ハード2」(90年)が32億円とヒットを連発していたから、当然来日の声もかかったはずだ。

取材嫌いがついに日本へ

しかしウィリスは取材嫌いだったようで、来日が実現しない。そんな彼が初めて日本を訪れたのは、ワーナー・ブラザース配給の正月映画「ラスト・ボーイスカウト」の公開に合わせた1991年11月だった。当時宣伝会社で本作を担当したのが、元宣伝マンAさんである。ウィリスはなぜかバンドを同行させて来日、Aさんを驚かせる。数々の武勇伝を残した大スターの、日本上陸記を回想してもらおう。


「ラスト・ボーイスカウト」© 1991 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.
 
愛すべきちゃめっ気とロマンチシズム 村山章
仰天! カウチに寝たままインタビュー 初来日取材記 野島孝一

「ダイ・ハード」では来なかったのに

70年代から多くのハリウッドスター来日を担当したAさんだが、このタイミングでのウィリスの来日には首をひねった。
 
「『ラスト・ボーイスカウト』は本人が気に入ったんじゃないですか、来ることになった。前の年に公開された『ダイ・ハード2』では来なかったくせに、なんで今ごろ、って思ったもんです」
 
到着の3日ほど前になって、ワーナーに「バンドを連れて行く」と連絡が入る。ブルースバンドの「レッド・デビルズ」を同行させるというのだ。「映画の宣伝なのに、なんでバンド?」と面食らいながらも空港に迎えに行くと、Aさんは「楽器を積んで、バンドのメンバーと一緒の車に乗ってくれ」と指示される。ウィリスが乗ったリムジンの後に続いたバンの中、通訳もなく片言の英語での音楽談議とエアギター演奏でつなぐこと1時間半。無事、赤坂の宿泊先へ送り届けた。「冷や汗ものでしたよ」
 
さて当のウィリスは、到着の翌日、11月13日が取材日。宿泊先に隣接する別館で記者会見が設定されていたが、その会場までの数十メートルを移動するのに車を所望する。そして、昼すぎの会見開始時間に40分ほど遅れながら、悪びれることなく堂々と登場。会見の様子が、翌日付の毎日新聞朝刊で報じられている。ハリウッドスターの来日会見がニュースになることなどめったにない。ここにも大物ぶりがうかがえる。
 


「どうもアリガトウ」と日本語であいさつして機嫌良く会見をこなし、新聞や雑誌のインタビューに応じる。ここでは取材した記者を仰天させるのだが、その顚末(てんまつ)は、当時毎日新聞学芸部で映画記者だった野島孝一さんの原稿に譲ろう。
 

ブルースハープを見事に演奏

取材をこなしたウィリス、夜になって六本木の二つのクラブでレッド・デビルズとステージに立った。Aさんはスポーツ紙に取材させるため、記者を連れて同行した。「歌をちょっと歌って、ブルースハープも吹きました。歌はお世辞にも上手とは言えませんでしたが、ブルースハープの方はなかなかでしたよ。気持ちよさそうに演奏していました」
 
ウィリスは自らもR&Bのバンドを組み、アルバムを出すほど音楽活動にも熱を入れていた。「『ラスト・ボーイスカウト』のための来日にかこつけて、『レッド・デビルズ』の売り込みをしたかったんじゃないですかね」
 
来日から1カ月後、12月21日に正月映画として鳴り物入りで公開された「ラスト・ボーイスカウト」は、意外に振るわず配収5億9000万円。数々の大物スターを相手にしたAさんだが、「ブルース・ウィリスほど予想がつかなくて、ヒヤヒヤさせられた人も少ないですよ。引退するとは、残念ですねえ」と懐かしむのである。


「ラスト・ボーイスカウト」DVD(1572円)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

ひとシネマ編集部