北朝鮮との国境に近く、中国と朝鮮の文化が混ざり合う中国東北部の延吉の街を舞台に、競争社会からこぼれ落ち、挫折と閉塞感を抱える3人若者の邂逅と解放を描く。監督は、フィリピン人のメイドと小学生の心の交流を繊細に描いた「イロイロ ぬくもりの記憶」（2013年）で、第66回カンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したシンガポール出身のアンソニー・チェン。脚本なしの状態で、未知の撮影地で、撮影期間を先に決めて撮るという異例の映画制作を行なった。

主人公のひとりナナを演じたのは、「サンザシの樹の下で」（11年）でデビューし、21年に日本でもスマッシュヒットした「少年の君」（19年）でも知られるチョウ・ドンユイ。極寒の街に足止めされるハオフェンには、大人気シリーズ「唐人街探偵」（15年～）で天才探偵を演じたリウ・ハオラン。ナナに片思いするムードメーカーのシャオは、Netflix映画「流転の地球」（19年）や「あなたがここにいてほしい」（21年）のチュー・チューシアオが演じている。

母からのプレッシャーに心を壊したエリート社員のハオフォン（リウ・ハオラン）とオリンピック出場を断念した元フィギュアスケーターのナナ（チョウ・ドンユイ）、勉強が苦手で故郷を飛び出した料理人シャオ（チュー・チューシアオ）。それぞれの挫折を隠し、閉塞感の中で縮こまる３人が、中国と北朝鮮の国境の街、延吉に流れ着く。数日間を気ままに過ごす彼ら。冬の雪山と澄み切った空に息を呑み、凍りついた川の向こうに広がる隣の国を眺める。今をただ楽しみ、深入りはしないのが暗黙のルール。過去も未来も忘れ、極寒の延吉をクルーズするうちに、凍りついていた孤独がほどけていく。