TSUTAYA DISCASファン賞 「チェリまほ THE MOVIE」 風間太樹=宮武祐希撮影

TSUTAYA DISCASファン賞 「チェリまほ THE MOVIE」 風間太樹=宮武祐希撮影

2023.2.08

男性同士の恋愛 切実さと葛藤丹念に TSUTAYAファン賞「チェリまほ THE MOVIE」風間太樹監督 :第77回毎日映画コンクール

毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。

ひとしねま

伊藤遥

2022年は4月に映画「チェリまほ THE MOVIE 30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」が公開され、秋には演出を手がけた川口春奈主演ドラマ「silent」(フジテレビ系)が大きな話題を呼んだ。そして年末、「チェリまほ」が毎日映コンでTSUTAYA DISCAS映画ファン賞受賞の知らせ。風間太樹監督は、1年を「駆け抜けました」と安堵(あんど)したような充実の笑顔で振り返る。


「チェリまほ THE MOVIE」Ⓒ豊田悠/SQUARE ENIX 「チェリまほ THE MOVIE」製作委員会
  

大ヒット原作はたくさんの人に見てもらうチャンス

「チェリまほ」は、累計発行部数180万部超の人気BLコミックが原作。主人公の会社員、安達(赤楚衛二)は童貞のまま30歳を迎え、「触れた人の心を読み取れる魔法」を手に入れる。その魔法のおかげで、同じ会社で働く人気者、黒沢(町田啓太)が自分に好意を寄せていると気づき、徐々にひかれ合っていく――。そんな2人のやりとりが温かな視点でポップかつユーモラスに描かれていく。
 
「男性同士の恋愛が丁寧に描かれていることにまず魅力を感じました」。最初に原作を読んだ時の印象をそう語る。また、〝魔法〟の設定が、物語の仕掛けとして魅力的だったとも。「安達は相手の本心と実際に出てくる言葉の間にある差異やその人間性に向き合い、自分の受け取り方にも葛藤する。そうした部分が奥深く、描いていく上では面白くなりそうだと思いました」。繊細な感情を役者から引き出し、映像に浮かび上がらせることを得意とする風間監督ならではの一言だ。
 
「チェリまほ」は20年にテレビ東京系でドラマ化され、その際にも監督を務めた。原作を映像化するのは、朝井リョウの青春小説を元にした映画「チア男子!!」でも経験したが、特にプレッシャーは感じないという。「映像化するからこその表現があり、原作にあるエピソードを生身の人間が演じた時に更に魅力をもって届けられると信じているので、原作の人気はたくさんの人に見てもらえるかもしれないチャンスだと、ポジティブに受け取っていました」


ドラマ版は世界で人気

結果、ドラマ版「チェリまほ」は、ギャラクシー賞月間賞など数々の賞を総なめにし、タイ、韓国、ベトナムなど200以上の国や地域でも配信されるまでに。ただ、この爆発的な人気については冷静に分析している。
 
「『チェリまほ』で描いているのは人の心の内側にある切実さであるとか、誰かを大切に思う気持ちや愛情。主人公の2人は牛歩であろうと、一歩一歩、丁寧に歩み寄って行く。男性同士の恋愛であること以上に、人としてどうあるべきか、どう生きていくのかを丁寧に描けた作品だと思うので、視聴者の方々に自分の近くにあるものとして感じていただけたのかもしれないです」
 
大成功を収めた後に、続編として映画化が決まった時はさまざまな思いが駆け巡ったという。「ドラマで一度は描ききった物語だったので、そこから何を語れるかまず考えました。うれしいけれど、手放しには喜べない。ファンの方々の大きな期待にも応えたい。覚悟が必要だろうと思いました」。映画では、互いを思うがゆえにすれ違う2人の葛藤や、結婚に向けて前進してゆく覚悟に焦点を当てた。
  

                                                                                                               

衣装合わせで俳優とコミュニケーション

撮影で大切にしているのは「俳優と現場で話すこと」。特に撮影に入る前の衣装合わせの機会を重視している。「そこである程度、作品に対する思いや感想、どう演じていきたいかをお互いに知って、差異があれば埋めていく作業をするし、その差がむしろ面白くなりそうだという発見の場でもある。いつも衣装合わせは楽しみであり、怖い。けれどいつも向き合っている」
 
そうしたディスカッションは映画を撮り終えるまで継続する。そしてスタッフに加わってもらうことも重要だと説く。「ワンカットを切り取っていく中でも、誰かの思いや考えはできるだけ多く作品の中に閉じ込めてあげたい」。そんな思いで撮っている。
 

赤楚、町田と思い共有

主演した赤楚、町田への印象を尋ねると、「2人は結構話したい人たちなんですよ」と笑みがこぼれた。「予定調和にならないように、凝り固まってしまうぎりぎりのところを見定めながらお互い話している感じでした」。現場ではキャストとスタッフが熱い思いを共有し、時にはあえて議論しないことも選択しながら撮影を進めたという。
 
「嫌い合うんじゃなくて、できればお互いに委ね合って作品作りをしたい。ディスカッションの中で心を開いてくれるなら、心の内を知りたい。撮影行為を続けているというよりも、本当にその人のことを好きになろうといつも見つめている、という感じかと思います」
 
今後のビジョンはどう描いているのだろうか。「僕が撮る作品の像みたいなものをなんとなくイメージしてくださる方がちょっとずついると思うんですが、新たにジャンルを問わず、意欲的に裏切るつもりでいろんな作品に挑戦していきたいなと思っています。オリジナルにも挑戦したいと思っているので、作品を届ける度に見てもらえたらうれしいです」

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ライター
ひとしねま

伊藤遥

いとう・はるか 毎日新聞学芸部記者。2012年入社。高松支局、大阪社会部を経て、21年4月より現職。主に音楽(ポップス)を担当している。
 

カメラマン
ひとしねま

宮武祐希

毎日新聞写真部カメラマン

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