3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。
2022.11.01
観察眼がものをいう! 北九州からあげ王座決定戦3連覇のお店がロケ飯参入のわけ
「もう、弁当の打ち合わせをしただけで、この方はできるなとか、失敗するだろうなとか分かるんですよ!」
北九州からあげ王座決定戦で2016年から3連覇し、同決定戦で殿堂入りをした北九州市小倉北区「鶏の北湘」の社長・西優衣さんは自分の子供のことのように語り始めた。
「できる方は数年後にロケで戻ってきて仕事を任されている」
その一方、
「できない方は弁当を大量に余らせこっぴどく怒られる。発注ミスの弁当を泣きつかれて、こっそり持ち帰ることもあった」と話す。
そんな方には「こちらからいろいろスケジュールなどを聞いて、ミスを少なくできるように頑張る」そうだ。
西さんの目線は常に撮影現場で働く、最も弱い人を温かく見つめている。
創業10年目。今では北九州ロケには欠かせない、ロケ隊からもたびたび指名される店なのだが――。
原点は誰ものおなかと心を満たす、温かい食事の提供
西さんはロケ飯に参入するために、苦労と努力を重ねた一人。
「北湘」を開店して2年後。
弁当に自信が出てきて北九州フィルム・コミッションを訪ね、ロケ飯に加わりたいと話をした。しかしすでに同市には膨大な店が登録されたリストがあり、なかなか指名が来ない。
来ても「みんなが嫌がる、単価の安い朝食ばかりだった」。
そんな時、「缶のお茶を熱々のお湯で温めて、発泡スチロールの中の弁当パックの隙間(すきま)に入れて届けた」。
冬のロケ、「寒い中で冷たいご飯はかわいそう」と思ったことから発想した。
ロケの朝は早い。
多くのホテルでは朝食に対応できず、しかも単価の高いホテルの食事は予算上敬遠されることもある。
とはいえ、キャストやスタッフが多い場合は宿泊先がいくつものホテルにまたがるため、配達が大変だ。料理の内容は単純でも、とにかく手間がかかる。
それでも「熱々のご飯をやけどしながら手袋した手で握り、大手の機械生産と差別化した。お弁当を配るような下の方たちがやっとおにぎりにありついた時にも、温かくて喜んでくれた」と優しい笑顔で話してくれた。
この手作りの味は、お世辞にも広いと言えない弁当屋の一角で作られている。
現場にアンテナを張り、手間ひまを惜しまず応える
ある日弁当を届けたら「せっかく北九州まで来たのに、何でみんな同じものばかり出すんだ!」と怒鳴られたことも。
そこから「残っている他のお店の弁当を盗み見て、かぶらないよう研究をした。食べる側のことをもっと考えるようになったきっかけだった」と振り返る。
長いロケになると1カ月以上市内に滞在する。
「まずは弁当の中身の栄養のバランスを考える。そして飽きないように、時には北九州で名物のもつ鍋や瓦そばや焼きカレーなどを出すこともある。オムライスやガパオライスは人気のメニューになった。もちろんケータリングにも対応する。油を持って行って作った、揚げたての天丼は喜ばれた」と満面の笑み。
「ケータリングは、足りなくなると一番大変だった方たちが食べられないから、多めに持っていく」と、あくまでも現場目線である。
そんな西さんならではの、細やかな対応や手作りの味が人気を博しているようだ。
「移動の時食べる弁当はこぼしても服に色がつかないおかずにする」
「手間がかかりますね」と言うと、
「現場を見るとやっぱり気になる」と答えてくれた。
「ロケが終わったら映画に愛着が生まれてくる。関わった映画は必ず見に行く」とのこと。
もちろん、外国映画のロケにも対応する。
「韓国のロケ隊には必ず下関の本格的なキムチを仕入れる。タイは甘い、辛い、酸っぱいというように味がはっきりした料理を提供する。お店特製のラー油は受けが良かった。アメリカにはコストコで仕入れて大きなハンバーガーを作った」
ついでに自分の買い物をして気分転換をはかる。「楽しみながらやらないと」と付け加えた。
日ごろは店の他、区役所や医療機関、地元の百貨店などに弁当を卸している。
「北湘」とは別に個人で、筍(たけのこ)が旬の時には小倉南区の合馬茶屋を経営する。
春はロケ飯に高級食材の「合馬(おうま)の筍」がたびたび入るそうだ。
「コストが合わないでしょう」と言うと、「うちの山やけ、息子が掘ってくる分はタダなんよ」と普通のことのように笑いながら話すので、こちらもつられて大笑いしてしまった。
☑人気ロケ飯
【鶏の唐揚げ】
味をつけて24時間寝かせて、揚げる2〜3時間以上前に粉をつけておく。
すると片栗粉の粉っぽさがなくなり、粉が散らないので油もきれい。焦げがつくこともなくなる。
油は1日使ったらフライヤーから抜いて濾(こ)し、フライヤーの中も掃除する。
「油がダメだと全然ダメと思う」とキッパリ言い切った姿が印象的だった。
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