3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。
2022.10.24
食事をもっと、北九州をもっと。地元ロケ飯のオリジネーター・廣末憲章さんが語る17年
北九州ロケ飯のフロントランナー「ビストロクークー」
小倉北区の中央を流れる紫川のほとりにひっそりとある「ビストロクークー」。
民家を改造した隠れ家のような店内には、所せましと映画のポスターやサッカーチーム・ギラヴァンツ北九州のユニホームが飾られている。
このこぢんまりした同店の店主・廣末憲章さんは北九州ロケ飯のファーストペンギンであり、継続者として後続の指導をも惜しみなく行い尊敬を集める存在だという。
あいさつを交わした瞬間、お店の規模とは異なるほとばしる情熱を持っていることが伝わる人だった。
そんな彼の挑戦の17年間を駆け足で聞いてみた。
きっかけは映画人である常連客からのひと言
2006年、今年火災に見舞われた旦過市場周辺で3店のバーを経営していた頃、よくロケに来ているキャストやスタッフが来店していたという。
この地域は新宿ゴールデン街にも似た昭和を感じさせる街並みが迷路のように続き、ロケでも頻繁に使われていた。
2年がたった、2008年。
当時北九州フィルムコミッションの日々谷健司さんも常連客の1人。
「熊本、北九州とロケをやる『K20』の組付で食事の提供をやらないか」と持ちかけられた。
日々谷さんはロケの誘致とともにロケのホスピタリティーの充実を市内の人でやることを目指していた。
当時の組付はほとんどが東京から帯同して来ていたのだ。
組付とはロケの移動社員食堂兼憩いの場のようなもの。
「組付の意味も分からず、熊本・北九州のロケの朝・昼・晩・夜食と1日4食を毎日作り続けた」という。
「当時は何も分からないので、3台のバンに調理道具とテントを積んで現場に向かった。熊本ロケは2週間毎日夜食を出し終わると北九州に帰り仮眠した後、仕入れをしてまた朝食を作っていた」
「よく、食事をしながら寝落ちしていました」と笑いながら当時を振り返る。
現場で得た学びを生かしながら走り続けてきた
全力を傾けた組付だったが、日々谷さんからはダメ出ししかなかったという。
「特にこだわって見栄えも整えようとしたことが、出すのが遅いと言われたり」
「公務員としては珍しくズバリともの言う人だった」と懐かしそうに語った姿が2人のつながりを感じさせた。
「当時、本当悔しかったのでもう1回、もう1回とロケ現場で食事を提供し続けた」という。
そこで稼いだお金を惜しまず、道具をそろえていく。
今や店の3軒先の家に仕込み場とともにいろいろな食にまつわる道具が積み込まれている。
コツをつかんだのは18年公開ハリウッド映画の「アウトサイダー」の撮影で東京のクルーと共に食事を提供してから。
「情熱だけで突っ走っていたのだが(笑い)、東京の合理的な『義理人情では動かない』仕事の回し方が悔しいけど勉強になった」
それから、仲間を集めて食事を提供するコーディネートにも挑戦していく。
「北九州ならではの100点グルメは専門の店に任せる。何なら道具も貸せるくらいの物はそろえた。僕らは75〜80点くらいの通常食を提供するのがちょうど良い」と謙遜する。
後輩のキッチンカーの設計など、ロケ飯や野外の食提供にまつわるアドバイスなども惜しまず行っている。
なりたい未来の姿を描き、前進を続ける原動力に
当時に比べ道具も格段に進化した。
「今使っている4台目のキッチンカーは発電機が充電式で音も出ないので現場の近くでも食事の提供が可能だ」とのこと。
忙しい現場だからこそ、いつでも誰も取り残さず食事ができる距離感の確保が可能になった。
それでもまだ自分の提供する組付はベストではないという。
「この経験を市内の多くのお店に伝えて、多くの人に参加してもらってロケ・スタッフに食事を楽しんでもらう。北九州市を日本でNO.1のロケ地にしたい」とより遠くのゴールを見つめている。
他にギラヴァンツ北九州のホームゲームの試合食や企業のお弁当なども担当している。
最後に名刺交換をしたらメールアドレスが記されていなかった。
「お店のホームページもないんですよ」とちょっと昔気質が残る笑顔が印象的な人だった。
追記:ビストロクークーは惜しまれながら2022年に閉店。現在は、ロケ飯やお弁当、ケータリングなどを行っている。
☑人気ロケ飯
【関サバ茶漬け】
鶏飯にインスパイアを受け、地元料理胡麻(ごま)サバ茶漬けをアレンジした逸品。
いわゆる出汁(だし)茶漬け。
高級食材関サバを使ったスペシャル感と食欲がない人にもサラサラと食べられるのが現場の士気を高揚させる。
鶏飯用の鳥も用意するとほとんどの人が2杯を平らげると言う。
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