東京都稲城市平尾団地の商店街にて浅野純一さん

東京都稲城市平尾団地の商店街にて浅野純一さん

2023.1.18

団地育ちの料理人が地元商店街をベースに稲城市の地場野菜をアピールするロケ飯!

3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。

宮脇祐介

宮脇祐介

東京都稲城市にある平尾団地の商店街で、走る!洋食屋さんいなぎsatoyamaキッチンを営む浅野純一さん。
この団地で鍵っ子として育だち、「弟の食事の世話をしたのが料理との出会いだった」と言う。
中学を卒業すると自分の中では高校進学という選択肢はなく、調理師専門学校に進んだそうだ。
 

料理に厳しい反骨精神旺盛な親方

卒業して鎌倉パークホテル(神奈川県鎌倉市)のレストランで働くが、そこの親方が職人気質の強い「昭和」な人だったと。
「料理を混ぜる木のヘラが飛んだり、とにかくよく怒られた。ある日、いつものように早く来て準備をしていたらなぜだか怒られた。『何やってんだ! 今日は総上がりだ!』とさらに怒られる。どうもフロントとけんかしてキッチンをボイコットした日だったようだ」
 
料理に厳しいうえに反骨精神旺盛な親方。
弟子は櫛(くし)の歯が欠けるように辞めていったが、浅野さんは最後まで残った。
「とにかく腕が良かった。親方の腕を盗むのに必死に食らいついていった」のだそうだ。
 

38歳キッチンカーで独立

そのかいあって28歳で府中(東京都)のビジネスホテルの料理長をまかされる。
 
38歳で独立。
今でも十八番のビーフシチュー、オムライス、焼きたてのパンをキッチンカーで売るスタイル。

卵をぬっててりを出したオールドスタイルだが確かな味のバターロール

調理場は団地の近くの坂浜に設けた。
そのどれもが長年の洋食修業で身につけたフィニッシュ・ホールド(決め技)になる味だ。

ビーフの味がしっかりして、野菜の香りがほのかに残る絶品ビーフシチュー
 
主に東京や鶴見(神奈川県)の撮影や音楽スタジオで食事を出すようになり、やがて俳優からのロケ飯提供「差し入れ」の指名もかかるようになる。
スタッフから「いつもの勝負飯お願いします!」と豚ヒレのピカタなどメニューの指定も入るようになった。
組付きでは近所のお店にロケ飯を指導して弁当などを入れてもらうことも多くなった。
 

料理のストーリーを話すと味が何十倍にもおいしく

そんなある日稲城のイベントに出たことで地元の食材に出会った。
大根、ほうれん草、小松菜・・・・・・。
「稲城は土が良いので野菜が甘い」と目を細める。
料理の腕だけでなく、浅野さんの地元の素材を使うことで料理の物語が話せるようになった。
「お客さんに僕の出す料理のストーリー、稲城野菜の話をすると味が何十倍にもおいしく感じてもらえるようです」
 
さらに浅野さんは食事のおいしさを感じてもらうために作りたての熱々にこだわる。
「オムライスのオムレツを目の前で作るとみんなのテンションがすごく上がる。現場での唯一の楽しみの食事で意欲が増して良い作品が出来上がるのが僕の仕事」と胸を張る。
 
短い休憩時間の中での食事提供のため、段取りも含め奥さんや団地の若者を2〜3人入れて対応する。
あくまでスタッフも地元にこだわる。
 
そして、おいしいものを作るプライドを常に持ち続けている。

厨房での浅野さん
 

育った団地や稲城に恩返し

平尾団地に店を構えて17年になると言う。
歴史のある団地だけに住人の高齢化も切実である。
「98歳の女性がビーフシチューを完食してくれたり。昔は酎ハイ1杯で粘って延々話しかけてきたおじさんが、コーラしか飲めなくなったけど時々店に顔を出すんですよ」
 
そんな団地の日常から着想を得て4月に町おこしのイベント会社を地域の人と共同で設立すると言う。
その先には福祉や就労支援の仕事も視野に入れているそうだ。
 
「育った団地や稲城に恩返しができれば」
照れ笑いではにかんだ中にも強い意志のある瞳を感じる人なのでした。
 

☑人気ロケ飯

【オムライス】

洋食の基本・デミグラスソース、オムレツ、トマトライスのそのどれもが修業に裏付けされた確実な腕によって作られている。ロケ飯の時は時間との勝負だが全てのオムレツを目の前で作る。担当者はそのスタイルがわかっていて呼んでいるので、時には撮影スタッフをさらに動員して提供することも。付け合わせの稲城野菜がとても優しい味でさらにオムライスを引き立てている。

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ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

カメラマン
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

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