「THE LAST MOVIE STARS-ポールとジョアン 名優夫婦の映画のような人生-」より。 ©2022 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license.

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2023.5.08

夫婦の歴史だけでなく、映画界の歴史も映し出す「THE LAST MOVIE STARS-ポールとジョアン 名優夫婦の映画のような人生-」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

村山章

村山章

ポール・ニューマンといえば「明日に向かって撃て!」「暴力脱獄」「タワーリング・インフェルノ」などで知られる大スターだが、アメリカのスーパーマーケットに行くと、いささか奇妙な光景に出くわす。商品棚に、ポール・ニューマンの似顔絵が印刷されたドレッシングやパスタソースが並んでいるのだ。ブランド名は「Newman’s Own」。ニューマンが自ら設立した食品メーカーだという。
 
ニューマンはゴールデングローブ賞で監督賞に輝いた「レーチェル レーチェル」など、決して商業路線ではない作品を多く手がけた映画監督でもあり、優れたカーレーサーとしても名をはせた。一時は政界進出もうわさされ、社会貢献に熱心な慈善家として、食品メーカーの稼ぎはすべてチャリティーに充てていた。ひとりの人間として語るには非常に多面的な人物だ。
 
また妻のジョアン・ウッドワードも天才肌のカメレオン俳優で、ニューマンがスターの地位を確立するより前にアカデミー主演女優賞を獲得するなど、キャリアの初期では一歩も二歩も先を行っていた。日本では夫であるニューマンの知名度が高いが、映画や演劇界への功績ではウッドワードも負けていない。2人には16本の映画や舞台など夫婦共演も多い。
 
そんな俳優夫婦の人生を描いたドキュメンタリー作品「THE LAST MOVIE STARS-ポールとジョアン 名優夫婦の映画のような人生-」がU-NEXTで配信されている。全6話の監督を務めたのはイーサン・ホーク。これまた俳優、小説家、映画監督と多才に活躍している映画スターである。
 


ジョージ・クルーニー、ローラ・リニーら多くのスターに製作総指揮のスコセッシも出演

 ポール・ニューマンは2008年に83歳で亡くなっているが、生前、「理由なき反抗」の脚本家スチュワート・スターンと組んで伝記本を出そうとしていたらしい。スターンはニューマンとウッドワード、2人の家族や仕事仲間ら100人以上にインタビューを行ったが、結局、本は完成しなかった。いかなる理由かはわからないが、ニューマンがある時、膨大な取材テープを燃やしてしまったというのだ。テープが残っていたら、ニューマンやウッドワードについてだけでなく、映画史にとっての貴重な証言記録になっていたはずだ。
 
いや、テープは失われても、証言のすべてが失われたわけではなかった。インタビュアーのスターンが、取材テープの多くを文字に起こしていたからだ。テープは燃えてしまったので、取材全体のどのくらいの分量が文字化されているのかはわからない。が、イーサン・ホークが文字起こしした膨大なテキストをニューマンとウッドワードの娘から託されたことが、このドキュメンタリーが生まれるきっかけになった。
 
おりしもコロナ禍のロックダウンの最中で、ホークは風変わりなアプローチを思いついた。オンライン会議で俳優仲間を呼び集め、インタビューのテキストをみんなで朗読することにしたのだ。
 
ニューマンの役はジョージ・クルーニー、ウッドワード役はローラ・リニー、ニューマンの最初の妻にゾーイ・カザン。ビンセント・ドノフリオは映画監督のジョン・ヒューストンを、オスカー・アイザックがシドニー・ポラックの声を担当している。なんたるオールスターキャストか! 
 
しかもウッドワードや元妻が歯に衣(きぬ)着せぬ人物だから、語られるエピソードや考察がいちいち面白い。「50年間連れ添ったハリウッド一のおしどり夫婦」というポジティブなパブリックイメージも、ただの美談ではくくれないのだと赤裸々に明かしてくれる。

 
熱量高くドキュメンタリーを監督したイーサン・ホークにも注目

 そしてニューマンとウッドワードには膨大な出演作があり、ホークは2人の人生を映像として見せるために、それぞれの局面に合った映画やテレビドラマのシーンを引用した。最初の妻との離婚や、息子との複雑な関係など、引用シーンがいちいちハマっているので、見ているうちに、映画が人生を模倣しているのか、人生が映画を模倣しているのかわからなくなってくる。
 
ドキュメンタリーを監督しているホークが誰よりもニューマンとウッドワードに夢中になっていて、参加している仲間たちに熱弁をふるう姿もほほ笑ましい。ホークはニューマンの俳優人生を語る上で、とりわけニューマンがアカデミー主演男優賞を受賞した「ハスラー2」を重要視しているのだが、当時、同作での受賞は作品での演技よりも功労賞的なものだとやゆされていたのを覚えている。
 
しかし1970年生まれのホークにとって、リアルタイムで見ることができたニューマンの最初の映画が「ハスラー2」だったのではないか。筆者にしても、初めてスクリーンで見ることができたニューマンの主演作であり、今もサントラのレコードやパンフレットを持っている。興奮交じりに「ハスラー2」を推すホークに、同世代として今までにない親近感を覚える作品でもあった。
 
「THE LAST MOVIE STARS-ポールとジョアン 名優夫婦の映画のような人生-」はU-NEXTにて見放題で独占配信中


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ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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