「まる」

「まる」© 2024 Asmik Ace, Inc.

2024.10.14

堂本剛演じる沢田は無欲と貪欲のはざまで揺れる「まる」が教えてくれた大切なこと

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

今泉マヤ

今泉マヤ

ただの〝まる〟を描く

 堂本剛演じる沢田は美大卒ではあるもののアートで生計を立てられず人気現代美術家のアシスタントをしながら生活している。そんなある日、事故で腕をけがしてしまい仕事をクビになってしまう。元々くり返しの毎日にどこか空虚さを感じていた沢田は過剰に悲しむこともなく自宅の床をはっていたアリを追い、ただの〝まる〟を描き始める。その〝まる〟は沢田の知らないところで世界中に広まり、彼を取り巻く世界は一変していく……。


 

無欲さを求める貪欲な人々

 映画の面白さは無欲な沢田と、欲にまみれた世界のコントラストだ。沢田も、かつてはアーティストとしての成功を夢見ていただろう。それが今やすっかり心が消耗されてしまい、後輩にも「見てると苦しくなる」とまで言われてしまう。沢田には夢破れた悲しさよりも人生を諦めた虚無感がある。もし彼とともに働いていたら後輩は自分の未来に希望を感じることはむずかしいだろう。
そんななか偶発的に生まれた〝まる〟は大人気となり、沢田は意図せず突然売れっ子となってしまう。沢田自身は以前と変わらないのに、隣人や大家さん、友人知人の彼への態度は一変する。
沢田はなぜ売れたのか? 私なりの分析だが〝まる〟に投影された沢田自身の無欲さが、無常さや純粋さなどその時の世界が求めていたもの(自分たちとは正反対のもの)にハマったのかもしれない。無欲さを求める貪欲な人々。その異様な熱狂ぶりはSNSが普及した今、妙にリアルでぞっとした。
 

変わらず描き続けること

 以前「アートのお値段」という映画を見たことがある。2017年のニューヨークのアートシーンを作家、キュレーター、コレクターなどさまざまな視点から切り取ったドキュメンタリー作品だ。芸術とビジネスのはざまで揺れる人々のありのままが映されている。
「市場では突然注目されて生産とお金がすべてになる 何があっても制作を続けることが重要よ 雑音は気にせずに」
ハマー美術館のキュレーターであるコニー・バトラーが、ナイジェリア出身の若手女性アーティストにかけた言葉だ。
現在のアートシーンでは存命アーティスト、特に若手に対して作品の価値を認められるということは非常にむずかしい。そんななか世間に惑わされず自意識にもとらわれず、変わらず、描き続けること。
作品が売れても売れなくても沢田はずっと沢田のままだ。そのたたずまいこそが実はすごく大切なことを教えてくれているのでは……と感じた。
 

絵を描くときに大切にしたいこと

 また個人的に絵を描くことにおいてもう一つ大切だと思うことがある。それは、どのような心で描いたか?ということだ。
 私事だが今年初めて絵本を出版した。絵本という媒体は子どもだけが対象ではない。字が読みづらくなったお年寄りや、子ども心を忘れてしまった大人など、世代を問わず手に取ることができるものだ。しかも親子3世代など、長きにわたり読まれ続けるものも多い。
そんな絵本づくりにおいて私は〝楽しんで書く〟ことを最重要事項とした。逆に〝楽しく書けないときは書かない〟ようにした。
私は名画を生で鑑賞したとき、作者の気持ちが直接心に伝わってくるようで感動して泣いた経験がある。そのとき、きっと絵画は作者が対峙(たいじ)したぶんだけ念のようなものがこもるのだなと感じた。だからこそ私も描くときの心を大切にしたいと思った。
映画でも何気なく描いた〝まる〟は大ヒットしたのに、その後売るために描いた〝まる〟には値がつかなかった。変わらず心をこめて描き続けることがいかに大切で、どれだけむずかしいことなのか、改めて感じることができた。
 アートとは? その価値とは? アーティストとして生きるにはなにが大切なのか?……映画は〝まる〟のようにシンプルで、奥深い。また、詳しく触れなかったが売れないアーティスト役に堂本剛というキャスティングや沢田の周りのクセ強キャラたちが繰り広げる芝居合戦も見ものだ。
さまざまな要素で語れるし、絵画のように言葉で語れない良さもある。アート好きにもそうじゃない人にも「とにかく見て」と言いたくなる作品だった。

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ライター
今泉マヤ

今泉マヤ

いまいずみ まや
2006年に福岡県福岡市でスカウトされ、福岡の芸能プロダクション、アソウスタイルオフイスに所属。2013年の西南学院大学3年時にテレビ西日本の報道番組「福岡NEWSファイルCLUB」でお天気キャスターとリポーターとして活動する。2015年4月、株式会社マリアクレイスの設立とともに本格的に女優として活動するため上京する。俳優としてCM、ドラマやキャスター等とともに絵本の出版などアーティスト活動も行っている。

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